5 / 56
春の宵
5
しおりを挟む
「あんたパティシエ?」
「はい」
そう答えた途端、胸がずきりと痛んだ。
本が好きかと聞かれたときより、ずっと勇気の要る答えだった。
――私は……。
知らず、握りしめた指に力がこもる。
――私は本当に、パティシエを名乗っていいんだろうか。
「ありがとうございましたー!」
いきなり店の奥から大声が響いて、桜は肩をびくっとさせた。
少年も興を削がれたらしく、そそくさと踵を返して店を出ていく。
彼が去り、ドアについた鈴の音が鳴りやむと、店の奥から大柄な男がぬっと姿をあらわした。
「松田さん」
桜は男を睨みつけた。
「何でああいうことするんですか」
「は?何が」
「とぼけないでください。お客さん、びっくりして帰っちゃったじゃないですか」
「俺はお客さまがお帰りだったから、ありがとうございましたーって挨拶しただけだし」
「まだ喋ってる途中だったでしょ」
「何?お前、男に飢えすぎて高校生ナンパしてたわけ?」
「違います!私はただ、あの子が」
「おーい、どしたどした」
京介がやってきて、柔和な笑みで二人の間に割って入る。
「はい」
そう答えた途端、胸がずきりと痛んだ。
本が好きかと聞かれたときより、ずっと勇気の要る答えだった。
――私は……。
知らず、握りしめた指に力がこもる。
――私は本当に、パティシエを名乗っていいんだろうか。
「ありがとうございましたー!」
いきなり店の奥から大声が響いて、桜は肩をびくっとさせた。
少年も興を削がれたらしく、そそくさと踵を返して店を出ていく。
彼が去り、ドアについた鈴の音が鳴りやむと、店の奥から大柄な男がぬっと姿をあらわした。
「松田さん」
桜は男を睨みつけた。
「何でああいうことするんですか」
「は?何が」
「とぼけないでください。お客さん、びっくりして帰っちゃったじゃないですか」
「俺はお客さまがお帰りだったから、ありがとうございましたーって挨拶しただけだし」
「まだ喋ってる途中だったでしょ」
「何?お前、男に飢えすぎて高校生ナンパしてたわけ?」
「違います!私はただ、あの子が」
「おーい、どしたどした」
京介がやってきて、柔和な笑みで二人の間に割って入る。
1
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる