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春の宵
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レジに入っているのは京介だったので、桜はざっと店内を見回した。
カウンターに突っ伏すように眠っている少年に気づき、声をかけようと近寄る。
「お客さま」
よく眠っているのか、規則正しく肩が上下している。
安らかな眠りを妨げるのは気が咎めたが、桜はそっと彼の肩に手を置いた。
その途端、弾かれたように少年が起き上がったので、二、三歩たたらを踏む。
「お客さま。申しわけありませんが、閉店のお時間ですので」
営業用の表情で告げると、彼はまばたきを繰り返しながら頷いた。
伝票を引っつかんで立ち上がり、レジに向かう。
その背中に、思わず桜は問いかけていた。
「あの、君、名前は?」
少年は驚いたように振り返ると、疑いの目で桜を見つめた。
慌てて言い訳しようとした桜を遮って、
「山田太郎」
人を食ったような態度で言い切った。
絶対嘘だ。桜は思ったが、にべもない少年の口調にはっきりとした拒絶を感じ、それ以上の問いかけを諦めた。
――確かに、カフェの店員にいきなり名前聞かれたら怖いよね……。
ナンパ目的ではないと言いたかったのだが、これ以上言葉を重ねると余計に状況を悪化させそうだ。
口をつぐむ代わりに、桜はそれとなく少年を観察した。
カウンターに突っ伏すように眠っている少年に気づき、声をかけようと近寄る。
「お客さま」
よく眠っているのか、規則正しく肩が上下している。
安らかな眠りを妨げるのは気が咎めたが、桜はそっと彼の肩に手を置いた。
その途端、弾かれたように少年が起き上がったので、二、三歩たたらを踏む。
「お客さま。申しわけありませんが、閉店のお時間ですので」
営業用の表情で告げると、彼はまばたきを繰り返しながら頷いた。
伝票を引っつかんで立ち上がり、レジに向かう。
その背中に、思わず桜は問いかけていた。
「あの、君、名前は?」
少年は驚いたように振り返ると、疑いの目で桜を見つめた。
慌てて言い訳しようとした桜を遮って、
「山田太郎」
人を食ったような態度で言い切った。
絶対嘘だ。桜は思ったが、にべもない少年の口調にはっきりとした拒絶を感じ、それ以上の問いかけを諦めた。
――確かに、カフェの店員にいきなり名前聞かれたら怖いよね……。
ナンパ目的ではないと言いたかったのだが、これ以上言葉を重ねると余計に状況を悪化させそうだ。
口をつぐむ代わりに、桜はそれとなく少年を観察した。
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