3 / 30
春の宵
3
しおりを挟む
レジに入っているのは京介だったので、桜はざっと店内を見回した。
カウンターに突っ伏すように眠っている少年に気づき、声をかけようと近寄る。
「お客さま」
よく眠っているのか、規則正しく肩が上下している。
安らかな眠りを妨げるのは気が咎めたが、桜はそっと彼の肩に手を置いた。
その途端、弾かれたように少年が起き上がったので、二、三歩たたらを踏む。
「お客さま。申しわけありませんが、閉店のお時間ですので」
営業用の表情で告げると、彼はまばたきを繰り返しながら頷いた。
伝票を引っつかんで立ち上がり、レジに向かう。
その背中に、思わず桜は問いかけていた。
「あの、君、名前は?」
少年は驚いたように振り返ると、疑いの目で桜を見つめた。
慌てて言い訳しようとした桜を遮って、
「山田太郎」
人を食ったような態度で言い切った。
絶対嘘だ。桜は思ったが、にべもない少年の口調にはっきりとした拒絶を感じ、それ以上の問いかけを諦めた。
――確かに、カフェの店員にいきなり名前聞かれたら怖いよね……。
ナンパ目的ではないと言いたかったのだが、これ以上言葉を重ねると余計に状況を悪化させそうだ。
口をつぐむ代わりに、桜はそれとなく少年を観察した。
カウンターに突っ伏すように眠っている少年に気づき、声をかけようと近寄る。
「お客さま」
よく眠っているのか、規則正しく肩が上下している。
安らかな眠りを妨げるのは気が咎めたが、桜はそっと彼の肩に手を置いた。
その途端、弾かれたように少年が起き上がったので、二、三歩たたらを踏む。
「お客さま。申しわけありませんが、閉店のお時間ですので」
営業用の表情で告げると、彼はまばたきを繰り返しながら頷いた。
伝票を引っつかんで立ち上がり、レジに向かう。
その背中に、思わず桜は問いかけていた。
「あの、君、名前は?」
少年は驚いたように振り返ると、疑いの目で桜を見つめた。
慌てて言い訳しようとした桜を遮って、
「山田太郎」
人を食ったような態度で言い切った。
絶対嘘だ。桜は思ったが、にべもない少年の口調にはっきりとした拒絶を感じ、それ以上の問いかけを諦めた。
――確かに、カフェの店員にいきなり名前聞かれたら怖いよね……。
ナンパ目的ではないと言いたかったのだが、これ以上言葉を重ねると余計に状況を悪化させそうだ。
口をつぐむ代わりに、桜はそれとなく少年を観察した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる