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冬の章
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「本当……?」
蚊の鳴くような声が言い、フィンの青い瞳から涙が一筋流れた。
「父さんも母さんも兄さんも姉さんも、みんな殺されたんだ」
「うん」
「ハミルも俺をかばって死んで。それで俺……何も分からなくなった」
「うん」
「消したくなんかなかった」
手の甲で涙を拭い、フィンは喘いだ。
「俺はただ、みんなで一緒に……」
たった一人きりで、この世界に取り残された絶望。
かけられた呪いは、死ぬことを許さない。
けれども世界は自分の死を望んでいる。この上ない危険因子として。
そして全ての元凶をつくった仇である軍部は、フィンを実験台として利用し続けてきた。
思い出さずにいられたほうが、きっと幸せだった。
「その気になれば、お前は全てを滅ぼせる」
ルートは静かに問うた。
「軍部に復讐したいか」
フィンがイエスと答えたなら、ルートはそれを受け入れるだろう。
ルベリエやレッドやユリシスにも、その真意は十分に伝わっていた。
だが、フィンはゆっくりと首を振った。
「ううん」
フィンは腕を伸ばし、ルートに抱きついた。
「だって俺たち、一緒に士官になるんでしょう?」
虚を突かれたのか、ルベリエが目を見開いて硬直している。
レッドとユリシスは素早く目を見交わした。
「……ああ」
ルートは淡く、ひとひらの微笑を刻む。
その手を取り、ルートの手の甲を自らの額に当て、フィンは目を閉じた。
すると額がまばゆい光を四方に放ち、やがて光は収束してルートの手の甲に集まった。
「一は全、全は一」
頭の中で、システィマの声が鳴り響く。
「これでやっと、連鎖律が変わる」
光が消えると、フィンはそのままルートの腕の中に倒れ込んだ。
辺りには雪すら残らず、あるのはだだっ広い更地となった島と海。
それにルートとフィン、レッド、ユリシス、ルベリエの五人と、それを上空から見下ろすシスティマの姿だけだった。
気を失ってはいるものの、フィンは安らかな表情で寝息を立てている。
その様子を確認すると、ルートはシスティマを見上げた。
「よろしくね、ルート」
笑いながら何度も繰り返された言葉の意味に、ルートは今ようやく思い当たっていた。
「インフィニティをよろしくね。君の契約者、大統一の始祖、始まりの少年、ディンキン族の絶対存在」
「システィマといったな」
ルートは彼を睨み上げた。
「お前は一体何なんだ。何をしようとしてる」
「固有名はネリネ」
とシスティマは答えた。
「でも、名前にあまり意味はない。一は全、全は一だから」
何事もなかったかのように風は吹く。何もかもが根こそぎ消え去った、ゼロの大地の上に。
システィマは謎めいた微笑を浮かべて言った。
「君は僕、僕は君なんだよ。ルート」
聞き返そうとしても、既にその姿はなかった。
――インフィニティをよろしくね。
こだまのような響きを風がさらい、果てなきものを求めて伸ばす手の先に星が輝く。
こうして、決して語られることのない戦いは、静かに幕を閉じた。
【冬の章・終わり】
蚊の鳴くような声が言い、フィンの青い瞳から涙が一筋流れた。
「父さんも母さんも兄さんも姉さんも、みんな殺されたんだ」
「うん」
「ハミルも俺をかばって死んで。それで俺……何も分からなくなった」
「うん」
「消したくなんかなかった」
手の甲で涙を拭い、フィンは喘いだ。
「俺はただ、みんなで一緒に……」
たった一人きりで、この世界に取り残された絶望。
かけられた呪いは、死ぬことを許さない。
けれども世界は自分の死を望んでいる。この上ない危険因子として。
そして全ての元凶をつくった仇である軍部は、フィンを実験台として利用し続けてきた。
思い出さずにいられたほうが、きっと幸せだった。
「その気になれば、お前は全てを滅ぼせる」
ルートは静かに問うた。
「軍部に復讐したいか」
フィンがイエスと答えたなら、ルートはそれを受け入れるだろう。
ルベリエやレッドやユリシスにも、その真意は十分に伝わっていた。
だが、フィンはゆっくりと首を振った。
「ううん」
フィンは腕を伸ばし、ルートに抱きついた。
「だって俺たち、一緒に士官になるんでしょう?」
虚を突かれたのか、ルベリエが目を見開いて硬直している。
レッドとユリシスは素早く目を見交わした。
「……ああ」
ルートは淡く、ひとひらの微笑を刻む。
その手を取り、ルートの手の甲を自らの額に当て、フィンは目を閉じた。
すると額がまばゆい光を四方に放ち、やがて光は収束してルートの手の甲に集まった。
「一は全、全は一」
頭の中で、システィマの声が鳴り響く。
「これでやっと、連鎖律が変わる」
光が消えると、フィンはそのままルートの腕の中に倒れ込んだ。
辺りには雪すら残らず、あるのはだだっ広い更地となった島と海。
それにルートとフィン、レッド、ユリシス、ルベリエの五人と、それを上空から見下ろすシスティマの姿だけだった。
気を失ってはいるものの、フィンは安らかな表情で寝息を立てている。
その様子を確認すると、ルートはシスティマを見上げた。
「よろしくね、ルート」
笑いながら何度も繰り返された言葉の意味に、ルートは今ようやく思い当たっていた。
「インフィニティをよろしくね。君の契約者、大統一の始祖、始まりの少年、ディンキン族の絶対存在」
「システィマといったな」
ルートは彼を睨み上げた。
「お前は一体何なんだ。何をしようとしてる」
「固有名はネリネ」
とシスティマは答えた。
「でも、名前にあまり意味はない。一は全、全は一だから」
何事もなかったかのように風は吹く。何もかもが根こそぎ消え去った、ゼロの大地の上に。
システィマは謎めいた微笑を浮かべて言った。
「君は僕、僕は君なんだよ。ルート」
聞き返そうとしても、既にその姿はなかった。
――インフィニティをよろしくね。
こだまのような響きを風がさらい、果てなきものを求めて伸ばす手の先に星が輝く。
こうして、決して語られることのない戦いは、静かに幕を閉じた。
【冬の章・終わり】
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