護国の鳥

凪子

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冬の章

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ルート、ユリシス、ルベリエ、レッドの四人が円になり、それぞれの手を重ねる。

それを見て、システィマは軽く手を上げ、弧を描くように動かした。

すると球体はゆっくりと下降を始め、黒い渦の中心まで降りていき、そこで消えた。

地に足をつけたはずが、沼のようにぬかるんでいる感覚に四人は戸惑った。

先ほどまでいた場所は、もう同じ場所ですらなくなっている。

「フィン」

ルートは呼びかけ、手探りで黒い靄をかき分けてフィンの元に近づいた。

夢の中で走るときのように、足元が気持ち悪くておぼつかない。

フィンの目は相変わらず塗り潰されたように黒く、口は半開きになったまま、意味不明な言葉を時折放っている。

呪詛のような、悲鳴のような叫びが痛ましく尾を引いていく。

ルートがフィンの元に辿りついたとき、すぐそばにいたはずの三人の姿は、もう闇に飲まれて消え失せていた。

「俺はお前と、関わり合うつもりなんてなかった」

体は見えず、顔だけがかろうじて浮かび上がる濃い闇の中、ルートはフィンの頬に手を伸ばす。

「お前だけじゃない。自分以外の全員が敵だった。人はすぐに死ぬ。国だっていつかは滅びる。そんなものを信じたり、頼る奴のほうが馬鹿なんだって、そう思ってた」

手足の感覚が徐々に失せていく。

冷気に包まれ、物すごい力に引きずり込まれていく。まるで蟻地獄のように。

「だけど、ここに来て、もう一つ分かったことがある。俺は――欲しかったんだ。
友達や仲間や頼れる人や、帰るべき場所。自分が今まで否定してきた全てのものが、喉から手が出るほど欲しかった。それを持っている人間が、うらやましくて仕方なかったんだ」

触れた瞬間、フィンの黒く濁った目が、かすかに動いた。

「俺が持ってるのは、くだらないものばかりだ。恨みや恐れや不安や、憤りや怒り。欲しくもないのに、手元にそんなものしか残されてなくて。捨て去ることもできなくて、後悔ばかりで」

要らない重荷ばかり背負わされて、欲しいものは何一つ与えてもらえなかった。

でも、それすら自分の手の中から失われたら、きっと今まで生きてくることもできなかった。

「俺はお前に何も与えてやれないけど、お前の要らないものを受け取ってやることはできる。
多分、それができるのは俺ぐらいだろう」

他の者の手のひらは既に、色とりどりの宝石やガラクタで埋まっていて、空いているスペースはきっとない。

空っぽだからこそ、引き受けられることもあるのだ。

「渡せよ、お前の力。辛い記憶も、嫌な思いも全部。背負いきれない分、俺が引き受けてやるから」

その途端、赤ん坊が母親の指を握りしめる、切実な力を手のひらに感じた。

黒い霧が晴れ、不気味な地響きが収束してゆく。

開けた視界には草木一本残らぬ、平坦な無の荒野が広がっている。

まるで砂漠のようだ。他人事のようにルートは思った。
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