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冬の章
153
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「俺は王になろうとは思わない」
ルートは銃口をラグランジュに向けた。
「軍は君を殺すよ。きっと、とても簡単に」
ラグランジュは引き金にかかる指を見つめて言った。
「今までだってそうだった。不必要な部品は排除し、壊れた歯車は即座に取り換える。そうやって、この国は冷徹な機構を保ってきた。君の父上を殺したように。
僕は君の父上を知る、数少ない人間の一人だ。僕を信じられなくとも、お父上を信じてくれ。お父上が君に残した遺志を」
「父さんは母さんを殺そうとした」
ルートは遮った。
「姉さんから聞いて知っている。母さんは、父さんから逃げるためにこの村に身を寄せ、俺を産み落としてすぐ死んだ。そのとき、姉さんの手を信じられないくらい強く握りしめて、こう言ったそうだ。
『この子を絶対に父親に渡さないで』と」
無理やりせがんで姉から聞き出した、それが両親について知り得た全てだった。
「俺は姉さんの言葉を信じる。お前たちの仲間にはならない」
「そうか」
ラグランジュは肩をすくめた。
「なら、しょうがないね」
そこへ獣のような速さでフィンが割り込んできて、銃を抜いた。
一発、二発、三発。
あの銃の形状から見るに、先ほど打った銃弾も含め、残りは二発しか装填されていないはずだ。
飛びすさって距離を取り、弾道を計算してかわし、ルートはフィンに呼びかける。
「操られてる場合じゃないだろ、お前」
撃ち尽くしたフィンは、剣を抜いて飛びかかってくる。
恐ろしく速い一撃一撃に、受け止められないほどの力がかかっている。さばききれずに、足がよろめいた。
ラグランジュからの援護射撃を警戒して振り向くが、余計な手出しはフィンの暴走を招くと知ってか、つかず離れずの距離で静観している。
「お前は何がしたいんだ!軍に恨みを晴らしたいのか。国を崩壊させたいのか」
問いかけながら、ルートは自分の心の奥底にも同じ言葉を投げかけていた。
寒さに体力が奪われ、雪の上を走り回るのは困難だった。
滑って体制を崩したところを、フィンが馬乗りになって押し倒してくる。
血が黒くこびりついたこめかみ、そよぐ金の髪。
「嫌だよ……ルート。俺、おかしくなっちゃうよ」
突然、フィンの目から涙が溢れ、ルートの頬にぽたりと落ちた。
ひどく熱かった。
「こんな風になりたくないのに……」
「フィン」
ルートがその頬に手を伸ばしかけたとき、銃声が轟いた。
ラグランジュが銃を構え、簡潔に銃撃してくる。
ルートは銃口をラグランジュに向けた。
「軍は君を殺すよ。きっと、とても簡単に」
ラグランジュは引き金にかかる指を見つめて言った。
「今までだってそうだった。不必要な部品は排除し、壊れた歯車は即座に取り換える。そうやって、この国は冷徹な機構を保ってきた。君の父上を殺したように。
僕は君の父上を知る、数少ない人間の一人だ。僕を信じられなくとも、お父上を信じてくれ。お父上が君に残した遺志を」
「父さんは母さんを殺そうとした」
ルートは遮った。
「姉さんから聞いて知っている。母さんは、父さんから逃げるためにこの村に身を寄せ、俺を産み落としてすぐ死んだ。そのとき、姉さんの手を信じられないくらい強く握りしめて、こう言ったそうだ。
『この子を絶対に父親に渡さないで』と」
無理やりせがんで姉から聞き出した、それが両親について知り得た全てだった。
「俺は姉さんの言葉を信じる。お前たちの仲間にはならない」
「そうか」
ラグランジュは肩をすくめた。
「なら、しょうがないね」
そこへ獣のような速さでフィンが割り込んできて、銃を抜いた。
一発、二発、三発。
あの銃の形状から見るに、先ほど打った銃弾も含め、残りは二発しか装填されていないはずだ。
飛びすさって距離を取り、弾道を計算してかわし、ルートはフィンに呼びかける。
「操られてる場合じゃないだろ、お前」
撃ち尽くしたフィンは、剣を抜いて飛びかかってくる。
恐ろしく速い一撃一撃に、受け止められないほどの力がかかっている。さばききれずに、足がよろめいた。
ラグランジュからの援護射撃を警戒して振り向くが、余計な手出しはフィンの暴走を招くと知ってか、つかず離れずの距離で静観している。
「お前は何がしたいんだ!軍に恨みを晴らしたいのか。国を崩壊させたいのか」
問いかけながら、ルートは自分の心の奥底にも同じ言葉を投げかけていた。
寒さに体力が奪われ、雪の上を走り回るのは困難だった。
滑って体制を崩したところを、フィンが馬乗りになって押し倒してくる。
血が黒くこびりついたこめかみ、そよぐ金の髪。
「嫌だよ……ルート。俺、おかしくなっちゃうよ」
突然、フィンの目から涙が溢れ、ルートの頬にぽたりと落ちた。
ひどく熱かった。
「こんな風になりたくないのに……」
「フィン」
ルートがその頬に手を伸ばしかけたとき、銃声が轟いた。
ラグランジュが銃を構え、簡潔に銃撃してくる。
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