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冬の章
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当の本人だけが、きょとんとした様子で丘の下を見下ろし、
「ねえ、何で学校燃えてるの?」
「火事になれば、人は最も大切なもののところに飛んでいくだろう?」
ラグランジュは楽しげに言った。
「おかげで君たちが守ろうとしているものがどこにあるのか、はっきりと分かったよ。資料も、兵器も、全てこの手の中だ」
フィンはちんぷんかんぷんといった顔つきをしている。
「行け」
半ば突き飛ばすように押され、ルートは三人を促して丘を降りようと駆け出した。
「そうはいかないよ」
ラグランジュの指先が動いたかと思うと、
「フィン!」
ユリシスが引きつった叫び声を上げた。
最初ルートは、フィンがつまずいて転んだのかと思った。
しかし体勢を崩し、地面に倒れ込んだフィンの胸から、夥しい量の血が流れているのを見て瞠目する。
抱き起すと、胸に拳ほどの大きさの穴が開いていた。
肺に血が流れ込んで苦しいのか、咳き込むたびにフィンの口から血の霧が噴射される。
ユリシスは手で口を覆い、ルートはその傷が致命傷であることを確認した。
恐らく以前医務室に訪れたときに、フィンの心臓に小型の爆弾を設置したのだろう。
「ラグランジュ、貴様……!」
「よそ見してる場合じゃないよ、ルベリエ」
まるで芝居を見物するかのような態度で、ラグランジュはフィンを指さした。
「お楽しみはこれからさ」
すると、フィンは地面に手をついて起き上がり、流れる血と砕かれた心臓をものともせずに生きているではないか。
レッドが恐怖の表情で後ずさった。
「お前……」
「痛くないんだよ、俺」
フィンは腕を回し、にっこりとルートに微笑みかけた。
「ね、ルート」
ルートは答えず、代わりにラグランジュのほうを向いて、
「あのときもそうだ。あんたは中途半端なことはせず、パイに致死量の毒を盛ったはず。だが、こいつは死ななかった」
凜とした声が、冬の大気を震わせる。
「シルヴァリオは大方、毒を試すための実験台だったんだろう。あんたは最初からこいつに狙いを定めていたんだ」
ルートはフィンの肩を掴んで言った。
「話せよ。お前一体、何者なんだ」
本来心臓があるべき部分にぽっかりと穴があいているのに、呼吸をし、生命機能が維持している。
しかも本人は涼しい顔で、痛みを感じていない。
「確かに、コレは兵器だね。しかも、とびきりの」
ラグランジュは昏い愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
「
三年前に皆殺しにされた、ディンキン族の生き残り。レムニスケートでありとあらゆる人体実験を施された結果、分かったのは二つ。
彼は殺せない、彼は痛みを感じない。
大方、そんなところだろう?ルベリエ」
視線を向けられ、ルベリエの目がラグランジュに噛みつく。
「でも、きっと、これの使い道はそれだけじゃないね。話してもらおうか。去年君が焼き捨てた、ディンキン族と人体実験に関わる全てのデータを」
ルートは反射的にルベリエを見上げた。
「痛覚がない?そんな人間が」
ユリシスがフィンを見ると、表情が再び虚ろなものに変化している。
レッドが手を引いても、ぴくりとも動こうとしなかった。
「やめておけ。こいつは、お前に御しきれるようなものじゃない」
ルベリエはどこか諦観を帯びた眼差しで言った。
「ねえ、何で学校燃えてるの?」
「火事になれば、人は最も大切なもののところに飛んでいくだろう?」
ラグランジュは楽しげに言った。
「おかげで君たちが守ろうとしているものがどこにあるのか、はっきりと分かったよ。資料も、兵器も、全てこの手の中だ」
フィンはちんぷんかんぷんといった顔つきをしている。
「行け」
半ば突き飛ばすように押され、ルートは三人を促して丘を降りようと駆け出した。
「そうはいかないよ」
ラグランジュの指先が動いたかと思うと、
「フィン!」
ユリシスが引きつった叫び声を上げた。
最初ルートは、フィンがつまずいて転んだのかと思った。
しかし体勢を崩し、地面に倒れ込んだフィンの胸から、夥しい量の血が流れているのを見て瞠目する。
抱き起すと、胸に拳ほどの大きさの穴が開いていた。
肺に血が流れ込んで苦しいのか、咳き込むたびにフィンの口から血の霧が噴射される。
ユリシスは手で口を覆い、ルートはその傷が致命傷であることを確認した。
恐らく以前医務室に訪れたときに、フィンの心臓に小型の爆弾を設置したのだろう。
「ラグランジュ、貴様……!」
「よそ見してる場合じゃないよ、ルベリエ」
まるで芝居を見物するかのような態度で、ラグランジュはフィンを指さした。
「お楽しみはこれからさ」
すると、フィンは地面に手をついて起き上がり、流れる血と砕かれた心臓をものともせずに生きているではないか。
レッドが恐怖の表情で後ずさった。
「お前……」
「痛くないんだよ、俺」
フィンは腕を回し、にっこりとルートに微笑みかけた。
「ね、ルート」
ルートは答えず、代わりにラグランジュのほうを向いて、
「あのときもそうだ。あんたは中途半端なことはせず、パイに致死量の毒を盛ったはず。だが、こいつは死ななかった」
凜とした声が、冬の大気を震わせる。
「シルヴァリオは大方、毒を試すための実験台だったんだろう。あんたは最初からこいつに狙いを定めていたんだ」
ルートはフィンの肩を掴んで言った。
「話せよ。お前一体、何者なんだ」
本来心臓があるべき部分にぽっかりと穴があいているのに、呼吸をし、生命機能が維持している。
しかも本人は涼しい顔で、痛みを感じていない。
「確かに、コレは兵器だね。しかも、とびきりの」
ラグランジュは昏い愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
「
三年前に皆殺しにされた、ディンキン族の生き残り。レムニスケートでありとあらゆる人体実験を施された結果、分かったのは二つ。
彼は殺せない、彼は痛みを感じない。
大方、そんなところだろう?ルベリエ」
視線を向けられ、ルベリエの目がラグランジュに噛みつく。
「でも、きっと、これの使い道はそれだけじゃないね。話してもらおうか。去年君が焼き捨てた、ディンキン族と人体実験に関わる全てのデータを」
ルートは反射的にルベリエを見上げた。
「痛覚がない?そんな人間が」
ユリシスがフィンを見ると、表情が再び虚ろなものに変化している。
レッドが手を引いても、ぴくりとも動こうとしなかった。
「やめておけ。こいつは、お前に御しきれるようなものじゃない」
ルベリエはどこか諦観を帯びた眼差しで言った。
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