護国の鳥

凪子

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冬の章

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耳が割れるような爆音が起こったことは覚えている。

その直後に、突き飛ばされて体を壁に打ちつけ、目の前が白く染まった。

鼓膜が突き破られたのか、不気味な無音状態に煙が立ち込めている。

火薬の匂いと、咳き込む肺の動きと、打った背中と首の痺れるような痛みがあった。

爆弾は扉を粉砕し、壁を崩して天井に穴を空けていた。

ありえない場所から覗く鉛色の空に、こぼれ落ちる雪が清らかな白い光を投げかけている。

立ち上がると、吐く息が凝って凍てついた。

「無事か」

やや乱れた赤い髪とひねた表情、軽い口調が耐えがたいほど懐かしかった。

ユリシスはレッドの姿を目に映し、それから室内を見回した。

先ほどまで二人しかいなかった場所に、今は十人を超える屍が転がっている。そのどれもが黒衣をまとっていた。

どうやら爆弾で床に穴をあけ、崩れると同時に一階に降りてきたらしい。

レッドは重そうに足を引きずりながら銃を握り、ユリシスを背にかばって油断なく辺りを見回している。

「今の爆発」

「奴ら、武器だけは潤沢に持ってるみたいだからな。ちょっとかっぱらった」

煙が晴れ視界が開けて、ユリシスは、そばにいたはずのギルベルトが消えているのに気づいた。

レッドは顎で部屋の隅を指し示す。

上半身から血を流し、下半身を落ちてきた天井に押し潰されたギルベルトが、息も絶え絶えに虚ろな目をこちらに向けていた。

ごぽりと口から血を吐いて小刻みに痙攣している。思わずユリシスは口を手で覆った。

――自分さえいなければ。

軍機大臣の息子という切り札さえ手の内になければ、インバースもギルベルトたちも、こんな大それた計画を実行に移さなかったかもしれない。

「お前がやったんじゃないよ、ユリシス」

しゃがみ込み、ギルベルトの額に銃口を押し当ててレッドは言う。

止める間もなく、彼は引き金を引いた。

「俺が殺したんだ」

顔に点々と返り血が散る。

制服の袖でこすって、レッドは冷徹な表情で背を向ける。

ぽっかりと心に空いた穴に風が吹きこむ。

涙が出ないのは衝撃の大きさゆえか、自分の心が冷たいせいか。

「チビとお姫様と合流しよう。できれば四人でどこかに身を潜めたい。モレルの件もあるし、教官連中は当てにならないからな」

てきぱき言うと、レッドは六発入りの銃に弾を込め直し、死体をまたいで道を作った。

ともに学んできた者たちの死体を。
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