護国の鳥

凪子

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冬の章

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「インバースは、そういった人間の集まりなんだ。世の中をよくしたい、悪い部分を改めて軍を変えたいと思ったがゆえに職や居場所を奪われた者、元軍人や、軍によって故郷や家族を失った人たち。
僕らは軍が変えようもなく、変わりようもないことを身をもって知っている。
これは最終手段なんだ。手遅れになる前に腐った部分を除去しなければ、毒は体中に回って脳髄を侵し、この国の息の根を止めるだろう」

教えを説こうとするギルベルトに反論する手立てが見つからず、ユリシスはうなだれた。

「……そうかもしれない。でも、軍に属する全ての人間が腐っているわけじゃない。中にはくじけずに良心を持って、誇り高く職務を遂行している人だっているはずだ」

「君のお父上のように?」

ギルベルトの視線は容赦なくユリシスの両目を貫く。

「僕の父も軍属だった。ただの下士官、一兵卒にすぎなかったけれど」

別人のように暗い声が言った。

「父は僕が十歳になるころに自殺した。若くして夫を失った母が泣き叫ぶ声を、今でもはっきりと覚えている」

ギルベルトの母親は、その年の暮れ、父の後を追うようにして亡くなった。

「それからだよ、僕が軍部について調べ始めたのは。いろいろな文献を当たったり、退役した人を訪ねて話を聞いた。軍部ではいじめや著しい体罰が日常茶飯事に行われていて、毎年何十人と自殺者が出る。恐らく僕の父も、その一人だったんだろう」

ユリシスは何も答えることができない自分を恥じた。

「十年前の革命は、ただ破壊衝動に駆られた、全てを壊すためのものだったかもしれない。けど、今は違う。
僕らは無血革命を目指している。軍部を解散させたいとは言っているけれど、武装解除さえしてくれれば、誰も殺すつもりはない。
こちら側は、いつでも話し合いのテーブルにつく準備はできている。僕らはただ、誰もが平和に暮らせる、真に平等な世の中をつくりたいだけなんだ」

同じ言葉を、どこかで聞いた。

チェスをしながら、自分がルートに発した言葉だった。

あのとき、ルートも今の自分と同じ気持ちだったのだろうか。

「僕は君には同意できない」

ユリシスは覚悟を決めて言った。

「君たちの仲間になることもできない。今すぐに要求を撤回してくれ、ギルベルト。僕は命に代えてでも、この馬鹿げた作戦を止める」

ギルベルトはやんわりとした表情で首を振った。

「そう感情的にならないで。落ちついて、まずは話をしよう」

「僕は落ちついているよ。この上なく落ちついている」

伸ばされた手を、ユリシスは突っぱねた。

「話なら、もう十分聞いた。そして僕の結論は出ている。君たちの考えに賛同はできない」

「君はもう僕たちの一員なんだよ、ユリシス。翼の会は」

「だったら、僕は今この時点をもって、翼の会を脱退する」

顔色に血の気が戻り、ユリシスの頬が熱く燃えている。

「本当に、それが君の意志なんだね」

「ああ」

応じると、ギルベルトは懐から銃を取り出した。

「残念だよ――ユリシス」

そのときだった。
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