護国の鳥

凪子

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冬の章

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「でもって極めつけは、あのガキに送られた毒入りパイだ。あれは最初から俺を狙ったものじゃなく、あいつに毒を食わせるためのものだ。そうすれば、嫌でも医務室に留め置くことができる。大体、あんなものを用意して寮監に怪しまれずに学生寮に入り、個室の机の上に置くことができるのは、あんたら教官か医務官ぐらいだ」

「その理屈で言うと、俺も容疑者の候補に入っているな」

ルベリエが言うのにかぶせて、ルートは早口で言った。

「そうだ。あんたとラグランジュが共犯じゃないという証拠はない。ラグランジュは、俺やあいつを殺そうと思えばいつでも殺せたはずだ。だから今あんたが俺を助けようと、俺はあんたを疑うことしかできない」

「あいつの目的は分からんが、俺の目的はあいつを止めることだ」

ルベリエは言い、それから翳りのある目で、

「……いや、違うな。止めるという言葉は正確じゃない。俺はあいつを殺す」

ルートの顔が歪んだ。

「そんな言葉だけで信用できると思うのか」

「信用してくれとは頼んでいない」

「それが生徒にかける言葉かよ」

「ああ」

ルベリエはにべもなかった。

「人をあてにするな。自分の身くらい自分で守れ。それができない奴に、軍人をやる資格はない」

信念に貫かれた言葉に、ルートは睫毛を伏せる。

「怖いなら隠れてろ」

ルベリエは淡々と言った。

「行けないのなら、今この場で置いていく」

喉がひくつく。もう猶予はない。

そびえ立つ校舎と別棟から、緩やかに黒煙が立ち上っている。

ちらほらと、あちこちで火の手が上がっているのが見える。

あそこにインバースの連中が立てこもっているのだ。

「さっさと決めろ。戦場じゃ、迷った奴から死んでいく」

せっつかれて言い返そうとした瞬間、不意に矢が飛んできて地面に突き刺さった。

一人は遠方から弓、もう一人は剣を構えてこちらに迫ってくる。

ルートが銃を取り出す前に、恐ろしい勢いで相手が斬りかかってきた。

剣戟を受け止めるだけで精一杯で、力で押しまくられて地面に転がりこむ。躊躇している余裕はなかった。

自分のものとは思えぬ声を上げて、ルートは男の腹を突き刺した。

力が足りず、筋肉に阻まれ、内臓まで刃が届かない。

男は血走った目でルートの首を断ち切ろうと剣を振り下ろす。

がちん、と金属が地面を噛む音がした。
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