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冬の章
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大聖堂の扉を開けるやいなや、斬りかかってきた人影を、ルベリエは後ろに飛んで避けた。
腕の中で大人しくしていたユージェニーが、驚いて目を開ける。
「お前か」
ユージェニーを地面にそっとおろし、ルベリエは眼前のルートに向かって言った。
何が何だか分からず困惑しながらも、とにかく何か言わねばとするユージェニーを、まるで背中に目がついているかのように首を振って押し留める。
「相方はどこだ」
「あのガキのことを言ってるのなら、ここにはいない」
押し殺された低い声が答えた。
「朝起きたらどこにもいなかった」
「捜していたのか」
尋ねられたがルートは答えず、ルベリエと背後にかばわれたユージェニーを穴が開くほど凝視している。
「この人は私を助けてくれたの」
ユージェニーはつかえながら、ようやく口に出した。
「保険医の先生が手引きして、仲間を呼んでクーデターを起こしたのよ。黒装束の人間がいっぱい押し寄せてきて、もう少しで殺されるところだった」
焦りばかりが先に立ち、ユージェニーは息切れを覚えてしゃがみ込んだ。
心臓の鼓動がうるさく、冷や汗が背中にどっと噴き出してくる。
ルベリエが駆け寄り、背中に手を置いた。
「大丈夫か」
地面に手をつき、握りしめる爪に土がこびりつく。
見上げるユージェニーの瞳が震えている。彼女の息が整うまで、辛抱強くルベリエは待っている。
その様子を見て、ようやくルートは剣をおろした。
陽は中天に差しかかっているというのに、分厚い雲に覆われているせいか、辺りは薄暗く、凍りつくように寒い。
「何が起こってる」
ルベリエは答える代わりに指笛を吹き、伝書鳩を呼び出して、くくりつけられている文書を開いた。
目を落とすうちに、怜悧な横顔に苦いものが浮かぶ。
「ここはインバースに占拠された」
「インバースって」
ルートはかすれた声で、
「十年前にあんたらが壊滅させたんじゃないのか」
「生き残りがいる」
ルベリエは懐から銃を取り出すと、一つをルートに手渡した。
「奴らの目的は、インフィニティ・レムニスケートを手に入れることだ」
腕の中で大人しくしていたユージェニーが、驚いて目を開ける。
「お前か」
ユージェニーを地面にそっとおろし、ルベリエは眼前のルートに向かって言った。
何が何だか分からず困惑しながらも、とにかく何か言わねばとするユージェニーを、まるで背中に目がついているかのように首を振って押し留める。
「相方はどこだ」
「あのガキのことを言ってるのなら、ここにはいない」
押し殺された低い声が答えた。
「朝起きたらどこにもいなかった」
「捜していたのか」
尋ねられたがルートは答えず、ルベリエと背後にかばわれたユージェニーを穴が開くほど凝視している。
「この人は私を助けてくれたの」
ユージェニーはつかえながら、ようやく口に出した。
「保険医の先生が手引きして、仲間を呼んでクーデターを起こしたのよ。黒装束の人間がいっぱい押し寄せてきて、もう少しで殺されるところだった」
焦りばかりが先に立ち、ユージェニーは息切れを覚えてしゃがみ込んだ。
心臓の鼓動がうるさく、冷や汗が背中にどっと噴き出してくる。
ルベリエが駆け寄り、背中に手を置いた。
「大丈夫か」
地面に手をつき、握りしめる爪に土がこびりつく。
見上げるユージェニーの瞳が震えている。彼女の息が整うまで、辛抱強くルベリエは待っている。
その様子を見て、ようやくルートは剣をおろした。
陽は中天に差しかかっているというのに、分厚い雲に覆われているせいか、辺りは薄暗く、凍りつくように寒い。
「何が起こってる」
ルベリエは答える代わりに指笛を吹き、伝書鳩を呼び出して、くくりつけられている文書を開いた。
目を落とすうちに、怜悧な横顔に苦いものが浮かぶ。
「ここはインバースに占拠された」
「インバースって」
ルートはかすれた声で、
「十年前にあんたらが壊滅させたんじゃないのか」
「生き残りがいる」
ルベリエは懐から銃を取り出すと、一つをルートに手渡した。
「奴らの目的は、インフィニティ・レムニスケートを手に入れることだ」
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