護国の鳥

凪子

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秋の章

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ラグランジュは紙片に記された『F』に目を落とす。

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」

最後の一歩で追い詰められ、ユージェニーの背後には書棚、前にはラグランジュと逃げ場を失った。

「君が十年前の革命義勇軍の残党という意味で言っているのなら、それは違う。僕らが作り上げたのは小さな一つのネットワークであり、国家だ。そこでは序列や階級といった縦のつながりではなく、フラットにいくつものグループがつながり合い、相互扶助の関係を築いている。目的を同じくする者たちが所属する、あくまでも自由で対等な組織だ」

「目的?」

「そう」

ラグランジュは明快な口調で、

「エスペラント軍を滅ぼすこと」

理解し難いといった表情で、ユージェニーは言った。

「あなたは軍医でしょう?軍を滅ぼせば、路頭に迷うことになるんじゃないの」

「そんなのは瑣末なことさ」

ラグランジュは爽やかに切って捨てた。

「崇高な大義の前では、無意味な塵同然だ」

「軍に恨みを持つ人間が集まったのが、インバースという組織なのね。そこに入れば、私も復讐を果たせるというの」

「僕らには僕らの信念があり、理想がある。それは、おいそれと一言で表現できるようなものじゃない」

ラグランジュはユージェニーの手を取った。

「一つ教えてあげるよ、ユージェ。君のお兄さんは、インバースの構成員だったんだ」

「……何ですって?」

ユージェニーの瞳に驚愕が広がるさまを、ラグランジュは愉快げに見つめている。

「士官候補生でありながら、軍に疑念を抱いていたんだね。自分の思想が教官と反目するもので、目をつけられていることにも気づいていた。だからこそ、頻繁に君に手紙を書き送っていたんだ。それとは知られぬよう、符牒を交えながら」

振りほどこうとすると、もう片方の手が肩を押さえて顔を近づけられる。

「教えてほしい。フランツの手紙に書かれていた全てのことを。それはきっと、僕らにとって有益な情報に違いないんだ。そして、僕らと一緒に仇を取ろう。お兄さんのために。自分自身のために」

呟きは、喉の奥で潰れて消える。

「ん?」

聞き返そうと顔を近づけたラグランジュに、ユージェニーは激しい頭突きをお見舞いした。

完全に不意を突かれ、ラグランジュが二、三歩よろめく。

その隙にユージェニーは拘束を打ち破り、出入り口まで走った。

だが扉の前で、突如として現れた黒装束の人間に羽交い絞めにされる。

残忍な笑い声を立てながら、ゆっくりとラグランジュが近づいてきた。
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