護国の鳥

凪子

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夏の章

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時計塔に自由に出入りし、外部から資料を持ち込めるのは、職員のうちでも限られた人間だけだろう。

資料の内容から見ても、軍内部の人間である可能性が高い。

隠し場所にわざわざサイクロイドを選んだ理由は明らかだ。

治外法権下にあるここでなら軍部や捜査機関の手は及ばないし、もし万が一発覚としても、関わった人間を抹殺すれば事足りる。

一年後には何食わぬ顔で軍務に復帰できる。秘匿には最善の環境だった。

だが、そもそも誰が、何のために?

「でもさ、これ、いつからここにあったのか分かんないよ」

書類を指さして言うフィンに、ルートは目を細めた。

「確かに」

ユリシスは口元に手を添えて考え込む。

「フィンの言うとおりだ。僕らは、まだ何かを見落としているんじゃないか」

「あくまでこれは氷山の一角ってことだよ」

レッドは平板な声で言った。

「たまたま今は、こんなものが置いてあったってだけだ。ここは元来そういう場所なんだよ」

「そういう場所って?」

「つまり、見られたら都合の悪いものを隠す場所ってこと。外部からの監査が入ったときに、こんな極秘情報が明るみに出たら大変だろ?だから、疎開先としてここに隠してるの」

「でも、まさか軍部がここを情報隠匿に利用しているだなんて」

ユリシスは苦悩の面持ちだった。

「その資料が本物だという証拠はあるのかい」

「ないな。だが、恐らく間違いない」

「何で分かるの?」

フィンは尋ねたが、ルートはその質問には答えず、代わりにこう言った。

「掃討された少数民族の名を言ってなかったな」

うん、とフィンは頷いた。

「ディンキン族」

音が溶け消えるのを待って、ルートはその響きがもたらすものを確かめようと目を凝らす。

フィンの表情は普段と何も変わらない。

吸い込まれそうな目を見つめ、ルートは抜かりなく最後の一欠片を思考に嵌めこもうとしていた。

「掃討作戦に臨んだ兵士たちはもちろん、殺し尽くされたはずのディンキン族の死体も全て、忽然とその場から消えてなくなっていた」

やけに棒読みの口調でルートは告げる。

――十年前の反乱と同じく、全貌は闇に葬られている。

ただ一つ違うのは、真実を知る生き証人が一人も存在していないということだった。

そこで本当は何が起こったのか、いかにして大地に巨大な穴は穿たれ、数千名の人間が跡形もなく姿を消したのか。

存在を黙殺され問いかけられなければ、謎は謎ですらない。

「ふうん、そうなんだ」

フィンは退屈そうに相づちを打ち、かわいらしいあくびを一つ添える。

「そろそろ帰ろ。俺、ソーダ水飲みたくなってきた」













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