護国の鳥

凪子

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夏の章

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「別に大した意味はねえよ。ただ、知っておくに越したことはないだろ。他州には他州の歴史や文化ってもんがある。まあ四百年の間に混血が進んで、その辺も大分薄まってはきてるみたいだけどな」

エスペラント帝国には、首都州エスペラントのほかに六つの州がある。

それぞれノヴィアル、ヴォラピュク、ネウトラル、イド、インターリング、キルクと呼ばれている。

規矩に則ったかのような六角形の半島が直線で首都州に結ばれ、上空から見ると雪の結晶のような地形を織りなしている。

全ての州にはエスペラント帝国軍の基地が置かれているが、各州によって治安の良し悪しにはかなり差異がある。

特に南東のネウトラル州とイド自治区はエスペラントの統治に対する反発が未だ根強く、小競り合いが頻発している。

言語はエスペラント語に統一されてはいるものの、土着の民には容姿の違いはかなり大きく、髪の色や目の色、体格や身体能力といった面では特に差が顕著だった。

「サイクロイドやエスペラント軍自体が首都州に属してるからな。当然、入校者も首都州の人間が大多数を占める。他州から来た人間にとっては、差別と感じることも多いはずだ」

「だから、あいつの兄は事故死に見せかけて殺されたと?」

抑揚のない声色でルートは言った。

「いじめっていうのは、どこでも発生するもんさ。こんな閉鎖的な環境じゃ尚更な」

ルートが言葉を差し挟もうとしたとき、

「レッドは?」

と口を入れたのはフィンだった。

「レッドもよそ者なの?」

レッドは唇をすぼめ、少しの間言葉を失った。

が、すぐに軽い口調で、

「そういうこと。俺みたいに耳の尖った奴はインターリング系。よく覚えとけよ」

ぽんと頭に手を置かれ、フィンは首を傾げる。

「でもユリシスは首都州でしょ?幼馴染なんじゃないの?」

「一緒に育ったことは確かだな」

レッドは頷いた。

「母親がそっちの出なんだよ」

「そうなんだ。お母さん好き?」

レッドの口元から笑みが消えるのを、ルートは間近で捉えていた。

「……どうだろうな」

言葉を濁すと、レッドは切り返した。

「おチビは?」

「俺?親いないもん」

平然と答えるフィンに、レッドも「ああ、そうだったな」とそらとぼけた。

「でも、生まれたときから一人ってわけじゃないだろ?」

さらに踏み込むと、フィンは「ううん……」と小鼻を膨らませて、学科で難問を当てられたかのような悩ましい顔つきをしている。
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