護国の鳥

凪子

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春の章

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寮監に尋ねてみると、フィンは懲罰房に入れられたとのことだった。

それ自体は日常茶飯事であったが、ユリシスもぶち込まれていると聞いたときはさすがに驚いた。

レッドの話では武器庫の鍵番が殴り倒され、ユリシスは運悪くその場に居合わせたため、容疑をかけられたという。

夜明け前、そっとルートは寝床を抜け出した。

自由に解放されているようでいて、校内をうろつく生徒を教官たちは逐一監視している。

生徒の数が減ってきたせいで、人に紛れて行動することが難しくなってきた。

ルートが向かったのは森の傍にある小さな石造りの建物、そこには馬小屋と鳩舎がある。

鳩舎の中には雪のように白い鳩が十羽、行儀よく鉄の檻に閉じ込められている。

その足に赤や青や黄といった色のついた紐が結ばれているのを見て、ルートは目を眇めた。

これで行先を区別しているらしい。

ルートは紐を解き、代わりに持ってきた紙切れを鳩の足に結びつけ、それぞれを暁闇の空に解き放った。

シルヴァリオの件に始まり、ユージェニーの兄の不審死、武器庫の鍵番の襲撃事件。

どうにも、きな臭いことが多すぎる。

しかも面白くないことに、自分は無関係だとは言い切れない場所にいる。

どうせ巻き込まれるならば、今までのように距離を置くばかりではだめだ。

何かが起こる前に、先手を打てるようにしておかなければ――。

ルートは目を細めて水平線を見晴るかした。

藍色の闇は途切れ、金と紅の華やかなあけぼのが海に乱反射している。

初夏の証は、そこはかとなく大気に満ちていた。

「いい朝だね」

ルートは反射的に飛びのいた。

振り向きざまに臨戦態勢で構えると、そこには見たこともない人影が立っていた。

不思議な容姿だった。一目で得られる情報が何もない。

顔や体つきは幼いが、雰囲気は異様に大人びている。

黒いすとんとした服に身を包んでいるが、凹凸のない体つきと表情に乏しいせいか、少年とも少女とも判別がつかなかった。

とにかく、彼が士官でも職員でもないということだけは確実だった。

「見て。瑠璃色のオルフェが舞っている」

ついと指さすと、東の空に宝石のような蝶の群れが一斉に舞い上がり、きらめきながら飛翔していく。

「お前は誰だ」

険しい顔でルートは尋ねた。

「誰でもないよ。僕はシスティマだから」

声も不思議な響きで、変声期の少年のような印象もありながら、小さな女の子のものであるような気もした。
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