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春の章
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それじゃあ、と大聖堂から出て行こうとする背中に向かって呼びかけたのはフィンだった。
「ねえ」
足をとめて顔だけで振り返る横顔を、月の光が蒼白く濡らしている。
「何でお兄さんが殺されたって分かるの?」
フィンは赤ん坊のように澄んだ目で、瞬きもせずユージェニーを直視している。
何の他意もない眼差しが、ユージェニーの足をすくませた。
「……手紙が来たからよ」
ややあって、千切れかけた声が言った。
「手紙?」
「そう。兄さんは入校してから、ずっと私に手紙を送ってくれていたの。最後の手紙が来たのが、去年の七月十八日のことだった。そこに書かれていたのは、今までの手紙を全て燃やしてほしいということ。それと、」
「それと?」
ルートが問いかける。
ユージェニーはルートを見ると、フィン、レッド、ユリシスへと視線を移し、最後に大聖堂の正面にそびえる祭壇と、ステンドグラスに描かれた護国の鳥を見つめて言った。
「【帰れなくなるかもしれない。ユージェ、俺は『選ばれて』しまったのかもしれない。
これが運命なのかと思うと恐ろしくて、受け入れることが怖くてたまらない。
でも俺は、誰かに与えられた翼で飛ぶことはできない。
ごめんな、ユージェ。どんなことがあっても、兄さんはお前を信じているよ。】」
最後のほうは、涙まじりの声になった。
「……訓練中の事故ですって?」
ユージェニーは笑っていた。
「死ぬと思っていなかった人が、どうやったらこんなものを書き残せるの」
凝固した怒りは、凛々と響き渡って大聖堂を支配する。
「私は必ず兄を殺した人間を突きとめる。絶対に、ただでは死なないわ」
ユージェニーは胸に手を当てて宣言し、決然とした足取りで大聖堂を出ていった。
「ねえ」
足をとめて顔だけで振り返る横顔を、月の光が蒼白く濡らしている。
「何でお兄さんが殺されたって分かるの?」
フィンは赤ん坊のように澄んだ目で、瞬きもせずユージェニーを直視している。
何の他意もない眼差しが、ユージェニーの足をすくませた。
「……手紙が来たからよ」
ややあって、千切れかけた声が言った。
「手紙?」
「そう。兄さんは入校してから、ずっと私に手紙を送ってくれていたの。最後の手紙が来たのが、去年の七月十八日のことだった。そこに書かれていたのは、今までの手紙を全て燃やしてほしいということ。それと、」
「それと?」
ルートが問いかける。
ユージェニーはルートを見ると、フィン、レッド、ユリシスへと視線を移し、最後に大聖堂の正面にそびえる祭壇と、ステンドグラスに描かれた護国の鳥を見つめて言った。
「【帰れなくなるかもしれない。ユージェ、俺は『選ばれて』しまったのかもしれない。
これが運命なのかと思うと恐ろしくて、受け入れることが怖くてたまらない。
でも俺は、誰かに与えられた翼で飛ぶことはできない。
ごめんな、ユージェ。どんなことがあっても、兄さんはお前を信じているよ。】」
最後のほうは、涙まじりの声になった。
「……訓練中の事故ですって?」
ユージェニーは笑っていた。
「死ぬと思っていなかった人が、どうやったらこんなものを書き残せるの」
凝固した怒りは、凛々と響き渡って大聖堂を支配する。
「私は必ず兄を殺した人間を突きとめる。絶対に、ただでは死なないわ」
ユージェニーは胸に手を当てて宣言し、決然とした足取りで大聖堂を出ていった。
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