護国の鳥

凪子

文字の大きさ
上 下
69 / 174
春の章

67

しおりを挟む
それじゃあ、と大聖堂から出て行こうとする背中に向かって呼びかけたのはフィンだった。

「ねえ」

足をとめて顔だけで振り返る横顔を、月の光が蒼白く濡らしている。

「何でお兄さんが殺されたって分かるの?」

フィンは赤ん坊のように澄んだ目で、瞬きもせずユージェニーを直視している。

何の他意もない眼差しが、ユージェニーの足をすくませた。

「……手紙が来たからよ」

ややあって、千切れかけた声が言った。

「手紙?」

「そう。兄さんは入校してから、ずっと私に手紙を送ってくれていたの。最後の手紙が来たのが、去年の七月十八日のことだった。そこに書かれていたのは、今までの手紙を全て燃やしてほしいということ。それと、」

「それと?」

ルートが問いかける。

ユージェニーはルートを見ると、フィン、レッド、ユリシスへと視線を移し、最後に大聖堂の正面にそびえる祭壇と、ステンドグラスに描かれた護国の鳥を見つめて言った。

「【帰れなくなるかもしれない。ユージェ、俺は『選ばれて』しまったのかもしれない。
これが運命なのかと思うと恐ろしくて、受け入れることが怖くてたまらない。
でも俺は、誰かに与えられた翼で飛ぶことはできない。
ごめんな、ユージェ。どんなことがあっても、兄さんはお前を信じているよ。】」

最後のほうは、涙まじりの声になった。

「……訓練中の事故ですって?」

ユージェニーは笑っていた。

「死ぬと思っていなかった人が、どうやったらこんなものを書き残せるの」

凝固した怒りは、凛々と響き渡って大聖堂を支配する。

「私は必ず兄を殺した人間を突きとめる。絶対に、ただでは死なないわ」

ユージェニーは胸に手を当てて宣言し、決然とした足取りで大聖堂を出ていった。













しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

追放神官とケモミミ探偵

心絵マシテ
ファンタジー
辺境の教会に住む神官、ディズは生まれながらにして、聖女に匹敵するほどの浄化の力を宿していた。 世俗との関わりを絶たれた神官は、ひょんなことから悪魔憑きと呼ばれるケモ耳少女と生活を共にすることとなる。 出会ってから数年……。 ケモ耳の少女、キィーナは探偵になりたいとディズに心の内を明かす。 ディスのまた、かつて自身も憧れた探偵という彼女の夢を応援してあげたいと決心する。 愛する家族のために神官として奔走するディズ。 ときに穢れの浄化。ときには結界の修復。癒しの力により人々を救うこともある。 前途多難な依頼ばかり舞い込んでくるも、その度にディズとキィーナの『推理』が窮地を救う。 様々な人々との出会いと別れ、目の前にある運命という壁を乗り越えてキィーナは少しずつ成長してゆく。 その最中、辺境神官にも新たな転機が訪れるのだが―――― それは二人にとって最大の試練だった。 むせ返るような悪臭と、忍びよる異形の陰……。 刻一刻と迫り来るタイムリミットに、必死に打開策を導き出そうとする神官。 「この子は、私が守るんだ!」 運命すら変える。 それは推理がもたらす恩恵。過去を解き明かして、未来を構築してゆく。 神官と探偵による奇跡の回答。 いくたの混迷、数々の問題を解決し悠々自適なスローライフを目指すディズと名探偵として活躍したいと願うキィーナ。 お互いの願いを叶える為に、二人は手を取り合いながら決意する。 世界に一縷の光を灯そうと―― 

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

地の果ての国 イーグル・アイ・サーガ

オノゴロ
ファンタジー
狂気の王が犯した冒涜の行為により闇に沈んだダファネア王国。 紺碧の王都は闇の王に取り憑かれ漆黒の死都と化した。 それを救わんと立ち上がったのは、運命の旅路をともにする四人。 たった一人残された王の血脈たるミアレ姫。王国の命運は姫の一身にかかっている。 それを守るブルクット族の戦士カラゲル。稲妻の刺青の者。この者には大いなる運命が待っている。 過去にとらわれた祭司ユーグは悔恨の道を歩む。神々の沈黙は不可解で残酷なものだ。 そして、空を映して底知れぬ青き瞳を持つ鷲使いの娘クラン。伝説のイーグル・アイ。精霊と渡り合う者。 聖地に身を潜める精霊と龍とは旅の一行に加護を与えるであろうか。これこそ物語の鍵となる。 果てしない草原に木霊するシャーマンの朗唱。それは抗いがたい運命を暗示するいにしえの言葉。 不死の呪いを受けた闇の道化。死霊魔法に侵される宿命の女。これもまた神々の計画なのか。 転がり始めた運命の物語はその円環を閉じるまで、その奔流を押しとどめることはできない。 鷲よ! 鷲よ! 我らの旅を導け! 陽光みなぎる青空の彼方、地の果ての国へと!

無色の魔術師 ~魔法を否定する魔術師の弟子~

カタナヅキ
ファンタジー
※魔法に嫌われた異端の魔術師と、魔法を否定する魔術師の弟子 主人公の「レノ」は幼い頃から魔術師に憧れ、山奥に暮らす「タケル」という名前の魔法使いの老人の元で修行を受ける。だが、タケルは重大な秘密を隠していた。それは彼は魔法が使えない「無色の魔術師」であり、魔力を操作する方法しか知らない。しかし、タケルは魔法が使えずとも最強の魔術師だとレノは信じた。 「俺も爺ちゃんのように魔法は使わない魔術師になってみせる!!」 これは魔術師に憧れながら魔法を否定する少年の物語である――

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

アイデンティティ崩壊フェアリーズ 妖精たちが人間の中学校に留学したら、たいへんなことになりました。

柳なつき
ファンタジー
「妖精は善良を本質とする」  人間のために尽くす。そのために妖精は存在する。  だが、しかし。  オレは妖精のはずだが、このまま一生だらだらと暮らしたい。  水の妖精レオンハルト。彼は、妖精界の年若い妖精で、妖精学校の劣等生。妖精としての自分のアイデンティティに疑問をもっている。  来年は、十五歳の成人式。それまでに、人間界において役に立つ自分の役目を見つけなければ、長老から長い寿命をもらうことはできない。わかっちゃいるけど、人間界からこっそり手に入れたゲームや漫画に入り浸る日々。  そんなとき、妖精学校の優等生の幼なじみ、炎の妖精ロザラインとともに、人間界への留学を命じられるが――?

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

処理中です...