護国の鳥

凪子

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春の章

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多岐に渡る軍事訓練の中でも、ほとんどの士官の記憶に深く刻みつけられるのが、飯盒炊爨はんごうすいさんの訓練だという。

各自に飯盒と固形燃料を渡され、これから一月ほど食堂が使用禁止になると聞かされたときのフィンの取り乱しようといったら、半端ではなかった。

「飢え死にしちゃうよ!」

ルベリエに喰ってかかったかと思うと、あっけなく組み伏せられて関節を完璧に極められる。

まるで教科書の模範のような完璧な体勢だった。

気の毒そうに見つめるユリシスとは好対照で、レッドは「馬鹿じゃねえの」と呆れを込めた眼差しを送っている。

「今後は食料の調達及び食事は各班で揃って行う。班長は毎日報告書を作成し、提出すること。以上」

実科や学科はより実戦に近づき、難易度が上がってくる頃合いである。

その上、短い自由時間に課題をこなしながら食料を調達し、自炊をするというのは至難の業だった。

「まさにサバイバルゲームってわけか」

昼の自由時間、班ごとに集合すると、レッドは腕を組んで笑った。

「せいぜい足引っ張んないようにしてくれよ、お二人さん」

ルートは無視して教室を出ていこうとする。

「待ってくれ」

慌ててユリシスが追いかけた。

「勝手な行動をとられては困る。昼食の時間は限られているんだ。食事は全員でとるようにと言われているだろう」

「知ったことか」

ルートは一蹴した。

「俺は一人で動く。ルベリエに報告したければすればいい」

ぐうう、と盛大な音が鳴ったかと思うと、フィンが泣きべそをかきながら弱々しくその場にへたり込む。

「お腹すいたよう……」

しおしおと哀感のこもった様子を横目で見て、ルートは舌打ちした。

レッドがとりなすように、

「まあまあ。今回だけは、チビに免じて言うこと聞いてくれよ。このまま飢え死にされても寝覚め悪いだろ?」

ルートの痛い視線が、フィンの白い額の上に注がれた。

「……ひと月ぐらい食わなくても死ねないんだよ」

目を上げたフィンに、ルートは「行くぞ」と背を向ける。
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