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春の章
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「なぜ、わざと隙をつくるんだ」
汗に濡れた髪をかき上げ、レッドは秀でた眉をくいと持ち上げた。
「そうでもしないと、僕が勝てないと思ったのか」
ユリシスが険しい顔で詰め寄ると、
「言いがかりだよ」
レッドは軽く語尾を跳ね上げる。
「怖い顔してないで休もうぜ」
「お前はいつもそうだな」
ユリシスの目に悲哀が宿る。
「一度だって、本気で僕の相手をしたことなどなかった」
レッドが反論しかけたとき、大きなどよめきが起こった。
見ると、サーベルを自由自在に振るうルートが、防戦一方のフィンに激しく畳みかけている。
猛烈な速さで繰り出される剣戟をさばきそこね、フィンの肩口と脇腹は真紅の鮮血に濡れていた。
「やめるんだ。もう制限時間は過ぎてる」
立会人のギルベルトが口を挟むが、二人は聞こえていないのか、剣のこすれ合う金属音だけが返ってくる。
ユリシスは教官たちを見たが、彼らは一向に止める様子はなく、むしろ意味ありげな目つきで観察している。
体格、技術、力、全てにおいて勝っているルートが試合の主導権を握っているのは当然で、しかし不思議なのは、やられているばかりに見えるフィンに、なかなか決定的な一撃を与えられないことだった。
やがてフィンは肩で息をし始め、足がもつれだした。
冷酷な眼差しで、ルートがさらなる追い打ちをかける。
――あいつ、本気で殺そうとしてやがる。
レッドは戦慄を覚えた。
腕を斬りつけられて、フィンがとうとう剣を取り落した。
ルートはすかさず間合いを詰め、避けきれぬ最短距離でサーベルを振りおろす。
「よせ、やめろ!」
汗に濡れた髪をかき上げ、レッドは秀でた眉をくいと持ち上げた。
「そうでもしないと、僕が勝てないと思ったのか」
ユリシスが険しい顔で詰め寄ると、
「言いがかりだよ」
レッドは軽く語尾を跳ね上げる。
「怖い顔してないで休もうぜ」
「お前はいつもそうだな」
ユリシスの目に悲哀が宿る。
「一度だって、本気で僕の相手をしたことなどなかった」
レッドが反論しかけたとき、大きなどよめきが起こった。
見ると、サーベルを自由自在に振るうルートが、防戦一方のフィンに激しく畳みかけている。
猛烈な速さで繰り出される剣戟をさばきそこね、フィンの肩口と脇腹は真紅の鮮血に濡れていた。
「やめるんだ。もう制限時間は過ぎてる」
立会人のギルベルトが口を挟むが、二人は聞こえていないのか、剣のこすれ合う金属音だけが返ってくる。
ユリシスは教官たちを見たが、彼らは一向に止める様子はなく、むしろ意味ありげな目つきで観察している。
体格、技術、力、全てにおいて勝っているルートが試合の主導権を握っているのは当然で、しかし不思議なのは、やられているばかりに見えるフィンに、なかなか決定的な一撃を与えられないことだった。
やがてフィンは肩で息をし始め、足がもつれだした。
冷酷な眼差しで、ルートがさらなる追い打ちをかける。
――あいつ、本気で殺そうとしてやがる。
レッドは戦慄を覚えた。
腕を斬りつけられて、フィンがとうとう剣を取り落した。
ルートはすかさず間合いを詰め、避けきれぬ最短距離でサーベルを振りおろす。
「よせ、やめろ!」
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