護国の鳥

凪子

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春の章

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「くそっ、タンジェント野郎が」

血の混じった唾を吐いて毒づくと、

「タンジェント野郎って何?」

ひょっこり角から顔を出したのはフィンだった。

レッドはぎょっとして唇を固まらせている。

モレルの陰湿な暴力は、必ず時と場所と相手を選んで行われる。

あの手慣れたやり口から見るに、これまでに何人も同じ目に遭った者がいるはずだった。

そのモレル自身とレッドに気づかれずして、背後に忍んで完全に気配を消していたのか。

「ねえ、タンジェント野郎って?」

近づいてきてしゃがみ込み、フィンは愛くるしい笑顔で再び尋ねる。

レッドは天をあおいで息をついた。

「……俺たちの住んでた地域で『お洒落さん』って意味だよ」

「ふうん」

フィンは嘘を見抜いた様子もなく、そのままどこかへ走り去ってしまった。

「あ、おい!」

呼び止める声が廊下にこだまする。

レッドは苛立ちとも不安ともつかぬ何かが、ちりちりと胸底を焦がすのを感じていた。

今はまだ先触れに過ぎない。

だが、絶対に放置しておいてはならない違和感の芽が確かに存在するのに、その場所を探り当てることができない。



























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