護国の鳥

凪子

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春の章

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いくら地位や身分は不問と銘打っているとはいえ、奴隷がサイクロイド士官学校の入校試験を受けた話など聞いたことがない。

そうするためには労働契約を解除しなければならないし、そもそも外出すら主人が許さないだろう。

自由の身になることができるとすれば、それこそ、主人と親類縁者を皆殺しにして逃亡するくらいしか――。

困惑するレッドだったが、ともかく場を収めようと強いて笑みを浮かべた。

「俺は何も見てないよ。ルート」

力のこもった、それでいて理解力に溢れる深い声音だった。

ルートはそれを聞いて薄く笑う。

「うじ虫の沸いた死体の味を知ってるか」

平静を装ったつもりでいたが、レッドの顔からは血の気が引いていた。

「ボウフラ入りの水を飲んだことがあるか?」

ルートの瞳に込められた悪意が内臓をえぐる。

彼は一歩レッドのほうに歩みよると、高らかにこうべを上げて言い切った。

「警告は二度としない。――俺に関わるな」

交渉など成立する余地もない。懐柔など論外。生ぬるい譲歩は逆効果。

「……ったく、何て奴だよ」

手ひどいしっぺ返しを食らった頬を撫で、レッドは背中に噴き出した冷や汗がシャツをへばりつかせている感覚にようやく気づいて、不愉快そうに舌を鳴らした。




















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