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春の章
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アヴァロンは恐ろしく卓越した作戦立案能力を持つ智将として知られ、その手腕は国中にあまねく轟いていた。
大将として軍の全権を握っていた彼が名誉職である総帥となり、第一線から退いたのは十年前。
五十五歳というあまりに若い引退に、軍部からも皇帝さえ慰留の声を上げたとされているが、彼は断固として決意を翻さなかった。
十年前といえば、エスペラント帝国創始以来、最大規模の反乱が起こった年である。
緻密な計画に基づいて作戦を遂行する、小回りの利く統制された部隊は、異様な殺傷能力を持つ武器を使い、またたく間に各都市を制圧していった。
鎮圧にはほぼ丸一年を要し、自らを『インバース』と名乗る革命義勇軍の幹部たちは、顔も名も伏せられ秘密裡に処刑された。
謎の多い事件である。
普通なら反逆者を大々的に処刑にし、見せしめとするのが通例のはず。
それがリーダーはおろか、その目的や動機や使用武器についてまで、全ての情報が秘匿されている。
国による規制が敷かれているせいか、資料もほとんど残されていない。
アヴァロンは鎮圧戦の陣頭指揮を執っている。
無論、反乱を企てた中心人物や真相についても知っていることだろう。
反乱鎮圧の後、即座に引退の意向を固めたことが無関係とは考えにくい。
だからこそ唯一の著作である『黄昏録』に当たってみたのだが、そこには自身の士官学校時代の回顧が語られた、いささか感傷的な追想がつづられているのみであった。
――そう簡単に手がかりが見つかるはずもないか。
ルートが肘をついて書物を閉じると、突然わらわらと周りを取り囲まれた。
大将として軍の全権を握っていた彼が名誉職である総帥となり、第一線から退いたのは十年前。
五十五歳というあまりに若い引退に、軍部からも皇帝さえ慰留の声を上げたとされているが、彼は断固として決意を翻さなかった。
十年前といえば、エスペラント帝国創始以来、最大規模の反乱が起こった年である。
緻密な計画に基づいて作戦を遂行する、小回りの利く統制された部隊は、異様な殺傷能力を持つ武器を使い、またたく間に各都市を制圧していった。
鎮圧にはほぼ丸一年を要し、自らを『インバース』と名乗る革命義勇軍の幹部たちは、顔も名も伏せられ秘密裡に処刑された。
謎の多い事件である。
普通なら反逆者を大々的に処刑にし、見せしめとするのが通例のはず。
それがリーダーはおろか、その目的や動機や使用武器についてまで、全ての情報が秘匿されている。
国による規制が敷かれているせいか、資料もほとんど残されていない。
アヴァロンは鎮圧戦の陣頭指揮を執っている。
無論、反乱を企てた中心人物や真相についても知っていることだろう。
反乱鎮圧の後、即座に引退の意向を固めたことが無関係とは考えにくい。
だからこそ唯一の著作である『黄昏録』に当たってみたのだが、そこには自身の士官学校時代の回顧が語られた、いささか感傷的な追想がつづられているのみであった。
――そう簡単に手がかりが見つかるはずもないか。
ルートが肘をついて書物を閉じると、突然わらわらと周りを取り囲まれた。
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