秋月の鬼

凪子

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一、

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母は滔々とうとうと淀みなく、言い含めるように語り続ける。常盤の細い肩に手をかけて。

「さ、馬鹿なことを言うのはやめて、家に戻っておくれよ。次郎も三郎も、ききょうもあやめも待っている。じきにあの子たちが起き出して、お前がいないことに気づいたらどれほど泣くと思う。それを考えてはくれないかい。

食い扶持が一つ減ったところで、苦しい暮らし向きが明るくなるわけもない。働き者のお前がいなきゃ、私らはどうやって暮らしていけばいいんだい?え?」

手に込められた力が強まり、常盤は軽く身を揺すってそれをほどいた。

母は暗く歪んだ笑みを浮かべ、元気よく手を腰に当て、

「さ、もうすぐ朝飯の時間だ。分かったらいつものように、湯を沸かして味噌汁でもこしらえておくれ」

真綿で包むような言葉に、しかし常盤は毅然と首を振った。

「いいえ母様、わたくしはもうこの家を出ていくと決めたのでございます。いかに引き留めていただこうと、縛り上げられようと、わたくしは都へ参ります」

凛とよく通る声に、頬を張られたように母がよろめいた。
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