その人事には理由がある

凪子

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「三年っていうのは、連続した休職日数のことを指してるからだよ」


新井はそう説明した。

「小嶋さんみたいに一度復職して働けば、次の休職期間はまた0からの計算になる。もちろん休職中の給料は支払われないけどね」

「どうして辞めさせないんですか」

思わず口に出してしまってから二人の表情を見て、千春は失言を悟った。

「すみません」

頭を下げると、金子は腕組みをしてじっとこちらを見つめている。

寡黙で落ちついているため地味な印象のある人だが、やや浅黒い肌に薄い唇、通った鼻筋と顔立ちは秀でている。

切れ長の目で凝視されると、どぎまぎするものがあった。

「全員が優秀で、よく働く組織なんて存在しないのは分かるだろう」

「もちろんそれは分かってます」

金子の語調は決して責めるものではなかったが、千春が慌てて否定したのは心にやましさがあったからだった。

「問題社員を切ったところで、また別の社員が問題社員になる。組織には問題の因子となる者が一定の割合でいて、彼らをどうコントロールしていくかが経営陣や人事に問われている。俺も君も、誰しも多かれ少なかれ問題はある。会社にとって都合の悪い人間を辞めさせてばかりいたら、それこそ社員全員を辞めさせなきゃならんからな」

「……はい」

千春は頷いたが、納得していなかった。

――そんなこと分かってる。

――でも、だったら問題社員に時間を割く前に、一生懸命頑張ってる人を評価してあげるべきなんじゃないの?

多々良のことといい、小嶋博子のことといい、今の会社のやり方は問題社員を甘やかしているようにしか思えなかった。

腑に落ちない気配を察したのか、金子は言った。

「何だ?」

「え?」

千春が顔を上げると、苦笑しながら促す。

「思ってることがあるなら言ってみなさい」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……。ただ、もし何かあったら」

「何かって?」

聞き返されて、千春は口ごもる。

「それは……まだ、よく分からないですけど」
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