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そこに立っていたのは女性の人影だった。
女子トイレから二十メートルほど先、ロッカールームの前に立ち尽くした彼女は、こちらを穴があくほど見つめている。
このフロアにいるのだから同じ会社の社員なのだろうが、千春には全く見覚えがなかった。
会釈してみたが、相手は会釈を返さず、先ほどと寸分たがわぬ姿勢でそこに立っている。
まるで、こちらが見えていないかのように。
遠目にもはっきり分かるくらい、その女性はがりがりに痩せていた。
白いカッターシャツに黒いカーディガン、黒いスカートにぺたんこの靴。
おかしな身なりをしているわけではない。おかしいのはその顔だった。奇妙に表情がないのだ。
怒っているわけでもなく、笑顔でもなく、もちろん泣いているわけでもない。
ただ生気のない瞳でこちらを見ている。一言も発さず、一ミリも動かないまま。
気味が悪くなってきて、千春は後ずさった。こんな人、うちの会社にいただろうか?
そのとき、背後から肩をたたかれて、
「わっ!!」
飛びのくと、驚いた顔で金子輔佐がこちらを見つめている。
「どうした」
「すみません、あの」
振り返って女性を指し示そうとしたが、彼女はそこから忽然と姿を消していた。
「忘れ物か?」
と聞かれ、とっさに千春は頷いた。
「あ、はい」
そうか、と金子は言うと、軽く手を上げて喫煙スペースのほうへ歩いていく。
――消えた?まさか。
千春は廊下を走り、彼女が立っていたあたりに来ると、ロッカールームの扉を開けた。
だが、そこはもぬけの殻で、何の痕跡も残されてはいなかった。
女子トイレから二十メートルほど先、ロッカールームの前に立ち尽くした彼女は、こちらを穴があくほど見つめている。
このフロアにいるのだから同じ会社の社員なのだろうが、千春には全く見覚えがなかった。
会釈してみたが、相手は会釈を返さず、先ほどと寸分たがわぬ姿勢でそこに立っている。
まるで、こちらが見えていないかのように。
遠目にもはっきり分かるくらい、その女性はがりがりに痩せていた。
白いカッターシャツに黒いカーディガン、黒いスカートにぺたんこの靴。
おかしな身なりをしているわけではない。おかしいのはその顔だった。奇妙に表情がないのだ。
怒っているわけでもなく、笑顔でもなく、もちろん泣いているわけでもない。
ただ生気のない瞳でこちらを見ている。一言も発さず、一ミリも動かないまま。
気味が悪くなってきて、千春は後ずさった。こんな人、うちの会社にいただろうか?
そのとき、背後から肩をたたかれて、
「わっ!!」
飛びのくと、驚いた顔で金子輔佐がこちらを見つめている。
「どうした」
「すみません、あの」
振り返って女性を指し示そうとしたが、彼女はそこから忽然と姿を消していた。
「忘れ物か?」
と聞かれ、とっさに千春は頷いた。
「あ、はい」
そうか、と金子は言うと、軽く手を上げて喫煙スペースのほうへ歩いていく。
――消えた?まさか。
千春は廊下を走り、彼女が立っていたあたりに来ると、ロッカールームの扉を開けた。
だが、そこはもぬけの殻で、何の痕跡も残されてはいなかった。
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