その人事には理由がある

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朝木静は人事課の課長であり、しかも大変な美人であるため、千春は面接時から彼女の顔をよく覚えていた。

新人社員研修の際にも接する機会は多かったように思う。

麗しいという言葉がよく似合う人で、知性があって優しく、物腰は柔らかいながらも芯の強さがある、そんな女性だった。

高い役職についているにもかかわらず、いつも笑顔で親身に話を聞いてくれる静は、研修時から千春たち新入社員の憧れの的だった。

ブースの奥側に静、手前に多々良と千春が並んで座る。

席につくなり口火を切ったのは多々良だった。

「今の人って、経理の網川あみかわさんですよね。何かあったんですか」

千春は話題に上がった人物が、先ほどすれ違った男性社員のことだと気づいた。

多々良は顔が広く、役員から掃除のおばちゃんに至るまで誰にでも気軽に話しかけているせいか、社内全員の名前と顔を把握している。

人間関係の事情にもよく通じているようで、もめごとが起こると大抵の場合、多々良に聞くと詳細が分かる。

「実は彼、ちょっと今困っているらしくて、さっきまで相談に来ていたの」

静は、内容を外部に漏らさないようにと、厳重に口止めしてから言った。

「セクハラの被害を受けてるんだということで、そのストレスで体調を崩しているから、配置転換を希望するって」

「セクハラ……ですか」

思わず千春は繰り返した。

誰が誰にセクハラだって？