物語のない人生なんて!~とにかく面白い物語が読みたいんや~

凪子

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くるもんはくる……きたときに受けて立てばいいんだ。『ハリーポッターと炎のゴブレット』――J・K・ローリング

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ハリーポッターシリーズへの愛は、1つの記事では到底書ききれない。

まだめちゃくちゃ分厚い単行本しかなかった時代から、文字通り肌身離さず持ち歩いて、通学の長い電車の中で何度も読んだ。バイブルと言っていい。

いわずと知れた世界的大大大ベストセラー、USJにもハリーポッターワールドが設置されているなど、もはや説明は不要だろう。

ワーナーブラザーズで全シリーズが映画化され、記録的な大ヒットとなったことも皆さんご存知のとおり。

その中でも、まず原作の小説の第4巻『炎のゴブレット』から紐解きたい。

◇あらすじ

「闇の印」――夜空に刻印された緑色に輝く髑髏。

闇の帝王の凋落後、13年間現れなかった死の印が、興奮と熱狂渦巻くクィディッチ・ワールドカップの夜に打ち上げられた。

いったい誰が、何のために――。

闇の帝王の復活に向けて、物語が動き始める。



第3巻『アズカバンの囚人』までは一話完結というか、1年の間に何やかんやあったけど、結果ハッピーエンドだよね、という感覚で読んでいた。

安心感があった。

でも、その安心感が裏切られ、不穏な空気に包まれるのが第4巻だ。

J・K・ローリングはお子さんがいらっしゃるけれど、そうだとしても、ティーンエイジャーをここまで鋭い視点で観察し、描けるのは天才的と言うほかない。

ハリーやロン、ハーマイオニーはもちろん、誰もが生き生きとリアルで、「そんな中学生いないやろ」というツッコミは入らない。

そして、誰の心にもある邪悪さを描くのもうまい。

例えばマルフォイが嫌な奴だというのは分かるけど、クラスメイトたちだって、普段はハリーをちやほやしても、旗色が悪いと見るや攻撃に回ったり、興味津々で噂したり、からかったり。

悪意はなく、ただ無邪気にやっているのが、余計に怖い。

そのことでハリーやロン、ハーマイオニーは時に傷つき、窮地に立たされ、孤独を募らせるが、最終的には「そういうもん」として割り切っているように思う。

特にハリーは生まれながらに特別な存在で、注目されることに慣れている。(というか、慣れざるを得なかった)

孤独で壮絶な生い立ちから、いろいろなことを諦めている。

そしてどこか老成した眼差しで、冷ややかに物事を達観している。

それでも真っすぐな勇気や正義感、年頃の男の子らしいやんちゃさが奇跡的に残っていて、アンバランスな魅力を放つ。

ハリーを見てると、なりたくて人気者になったわけじゃないし、惨めな思いもたくさんしてるし、辛いよね・・・と思う。

ハリーが向き合わなければならない宿命が、いよいよ形を取って現れるのが本巻だ。

はっきりとスイッチが入り、魔法学校の物語が、命がけの戦いへとシフトする。

そのきっかけこそ、セドリック・ディゴリー、今回のキーパーソンに他ならない。

魔法学校3大対抗戦、それぞれの恋愛、クィディッチ、占い学、マスゴミの権化リータ・スキータなど、見どころとスリルたっぷり。

個人的にはダンスパーティーのシーン、最大の見どころと言っても過言ではない。

眼鏡を取ったら美少女みたいな、まるで少女漫画のような展開にキュンキュンが止まらない。

あと、ハーマイオニーの捨て台詞も最高!

イライラしたり、貧乏だったり、友だちと喧嘩したり、恋に悩んだり、青春って楽しいばかりじゃない。

本当に自分もホグワーツにいるような臨場感を味わいつつ、自分の学生時代も蘇って重なる。

小さい頃両親を失わずにすむなら、何と引き換えにしてもいいと願うハリー。

ガリオン金貨とクィディッチのキャプテンを熱望し、いつも傍観者で、スターになりたいと願ってきたロン。

でしゃばりと笑われ、容姿をけなされ、マグルの娘と嘲られ、すがるように勉学に打ち込むハーマイオニー。

魔法の世界でも、魔法のようにご都合主義に解決することは一切ない。

ハリーたちが子どもだからって、敵は容赦なく卑劣に攻撃してくる。

だからこそ、そこで生まれる血の通った人間ドラマが私たちの心を打ち、温めるのだ。

読む人を別世界に連れて行き、幸せにしてくれる物語の魔法。

ふだん本を読まない人さえ、ハリーポッターのページを一たびめくれば、その魔法を信じることができる。

何年たっても読み返し、そのたび出会えたことに感謝したくなる作品だ。

◇好きな一文

「それはの、ハグリッド、世界中の人に好かれようと思うのなら、残念ながらこの小屋にずっと長いこと閉じこもっているほかあるまい」byダンブルドア

ロンやハーマイオニーと一緒にいるのが一番好きだった。三人で他愛のないことをしゃべったり、チェスをする二人をハリーが黙ってそばで見ていたりと、そんな時間が好きだった。三人とも、言葉に出さなくても一つの了解に達していると感じていた。
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