上 下
9 / 12

命って、生きるって、何ですか……――『ハッピーバースデー 命かがやく瞬間』青木和雄

しおりを挟む
本書は、いわゆる児童書に属するのだと思う。

この本と出会ったのは小学校のころで、友達に教えてもらって学校の図書室で読んだ記憶がある。

表紙の絵が綺麗で、挿絵も素敵で、物語にすぐ惹き込まれた。

心が大きく揺れ動き、読むたびに感動して泣いてしまう。

内容は子供向けではなく、むしろ大人の方に読んでいただきたい作品である。

◇あらすじ
「おまえ、生まれてこなきゃよかったよな。」
十一歳の誕生日、ママと兄のひと言から、あすかは声をなくしてしまう。
祖父母の愛と自然の中で回復したあすかは、「自分は自分として生きる」と強く心にちかった。
でも、問題はあすかだけではなかった。
小さい時の心の傷から、あすかを愛せないママ。
両親の言うとおりの人生に、疑問を持ち始める兄・直人。
そして、あすかを待ち受けていたのは、大好きな祖父と、親友めぐみとの永遠の別れだった……。

まるで、自分を見ているよう。

あるいは、自分の家庭を見ているよう。

他人事には決して思えない。そんな物語である。

私は、主人公あすかのような目には遭っていない。でも、あすかの気持ちはよく分かる。

直人のような子がたくさんいることも、知っている。

そして現代のいじめは、SNSやインターネットといったツールによって、ここに描かれているものよりも、ずっと残酷で厳しいものになった。

けれど、今もなお変わらないのは、誰の心にもあすかや直人がいることだ。

そして、あすかの父や母がなぜそうなってしまったかも、今ならよく分かる。

この物語のいいところは、変に道徳的に『いじめはやめましょうね』とか『いのちを大切にしましょうね』というメッセージを押しつけてこないところだ。

人は道徳のためではなく、親のためでもなく、ただ自分の道を生きる。

子どものころは、まだ自分というものがよく分からない。

だから、物語を通して心の内を潜っていき、経験したことのないことを経験し、自分さえ知らなかった自分に出会う。

あすかと同じ年齢で、この物語に出会えた私は幸せだと思う。

家族は、家族だからこそ難しい。

家族が、人間関係の中で一番難しいかもしれない。

そこには愛情があり、切っても切れないつながりがあり、距離の近さがある。

だから、時には誰よりも心を傷つけ合うことになる。

小学生のとき、あすかの母は大嫌いで悪者でしかなかったけれど、今読んでみると、彼女もまた苦しんでいたのだなと分かる。

子どもはどんなときも、たとえ何をされても親を心底憎むことはできない。

そして、親を選べない。いわゆる『親ガチャ』ってやつだ。

理不尽だなあ、と子どもながらに思ってきた。ずるいなあ、とも。

でも、親を憎んだり縁を切らなくても、自立して、自分の道を生きることはできる。

私はそれを、あすかに教えられた。

たった11歳の彼女が、毅然と母に「私は、あなたが勝手に傷つけていい存在ではない」と言い放ち、決別する場面は胸に迫るものがある。

震えが止まらないぐらい怖いことだと思う。

それでも、あすかは自分のために、母のために告げるのだ。

私は私、あなたの一部ではないと。

そして、それは決別ではなく、救いになる。

◇好きな一文
「だから、人間は勉強するんでしょ。おにいちゃん?」

◇こんな方におすすめ
教師、教育者、先生
お子さんを持つ方
自分が好きになれない方
好きなことが見つからない方
勉強が嫌いな方
友達がおらず、悩んでおられる方
母親や父親との関係に悩んでおられる方
いじめに遭っている方、遭っていた方、いじめていた方
学校に行くのが嫌な方
先生が嫌いな方
家にいるのが苦しい方
心の底から『生まれてきてよかった』と思えるようになりたい方
しおりを挟む

処理中です...