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身を隠す暇すら与えられず、ユリウスの目が極限まで見開かれる。

唇が半開きになっているのを見て、ナサニエル殿下も振り向き、私に気づいたようだった。

「おお、ローラ。噂をすれば本人のご登場だな」

仮面を外し、茶目っ気のある笑顔で言う。

もう、こうなっては出ていかないと仕方がない。

「お久しぶりです、ナサニエル殿下」

私はゆっくりと膝をかがめ、姫君らしい優雅なお辞儀をした。

「相変わらず綺麗だな、ローラ」

「ありがとうございます。本日はどういったご用件でいらしたのですか?」

「久しぶりに婚約者の顔を見たいと思ってな。ついでに一曲踊りたい」

ナサニエル殿下は平然と言って、私の手をとった。

「殿下……」

困った顔をしていると、「はははっ」と殿下は笑い出す。

「冗談だよ。ユリウスに殺されたくないからな」

「殺したりしませんよ。恨みはいたしますが」

ユリウスは本気とも嘘ともつかない口調で言う。

「ほら、意外と嫉妬深い奴だろ~。ローラと最初に踊ったくせに、なあ?」

「ふふ……そうですわね」

もう、どういう反応をしたら正解なのか分からず、とりあえず公爵令嬢モードで答えておく。

月明かりのせいか、ユリウスの表情はかすかに青ざめているように見えた。

笑ってはいるけれど、瞳は鋭いし、緊迫した様子が伝わってくる。

「でも、お前の顔が見たかったのは本当だよ。元気そうでよかった」

「……ありがとう存じます。殿下もお元気そうで何よりです」

「殿下。そろそろ」

私とナサニエル殿下の間に割って入り、ユリウスが厳しい口調で言った。

「ああ。分かってる」

殿下は頷くと、両腕を広げて私を力いっぱい抱きしめた。

「会えてよかった。またな」

「……はい」

頭の中が?でいっぱいだったけど、とにかく殿下は笑顔で去ってゆき、私も笑顔で見送った。
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