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「何で、って聞いてもいい?」

尋ねると、「もちろん」とマリーは微笑んだ。

「私は一人娘だから、侯爵家を継いで自分で領国の運営に携わりたいの。経営とか法律とかいろいろ学んで、ルークス侯爵領をもっと発展させたい。結婚して子供を産んで育てるより、そっちに打ち込みたいっていう気持ちのほうが大きいのよね。
もちろん跡継ぎ問題はあるんだけど、それは養子をとればいいかなって思ってて。優秀な人を自分で見つけて、一から育てて次の侯爵にするっていうのも楽しそうだし」

それは、この世界だとかなり特殊な考え方だったので、私は目をぱちぱちさせた。

「お父様とお母様には、そのことはお話したの?」

「まあね。いい顔はされなかったけど、絶対駄目だとは言われなかったわ。私も前にクソ男との騒動があったしね。二人とも私が変わり者だってことは昔から知ってるから、無理やり結婚して普通の道に進ませようとしても無駄だって分かってるんじゃないかな」

日当たりのいいテラスで、マリーの笑顔が向日葵のように咲いている。

「すごいね……。マリーはちゃんと自分で考えて、自分の進む道を決めてるんだ」

「そんな大したことじゃないよ」

マリーは照れくさそうに手を振ったが、私は改めて彼女に尊敬の念を抱いていた。

人や周りに流されず、さまざまなことを自分で考え、向き合い、自分の足で人生を歩んでいく。

「……私、何も考えてなかった。アレックスと婚約したときは6歳だったから仕方ないのかもしれないけど、ただこの人と結婚するんだなって思ってた。嫌いじゃなかったし、幼馴染だから情もあったけど、本当に好きなのかとか結婚したいかなんて考えなかった」

どうせ結婚するのだから、嫌われたり仲が悪くなったりしないように、上手に付き合っていこうと思っていた。

あの日、婚約破棄を言い渡される瞬間まで、彼との未来を真剣に考えたことはなかった。

……それって今思うと、かなり怖いことだ。

「そりゃそうだよ。ほとんどの子はそうだよ。だって、たとえ相性合わないなって思っても、結婚しなきゃいけないんだから。だったら真剣に相手と向き合わないほうが楽だもん」

「う……それは結構刺さるかも」

「ごめんごめん、ローラがそうだっていうんじゃなくてね。アレックズもお互いさまってこと」

「今、さりげなくクズって言った?」

「言ってない言ってない。アレックズ」

笑いながらマリーは繰り返す。私は思わず噴き出した。も~マリーったら天才的に面白いんだから。

しばらく笑うだけ笑ってから、私は切り出した。

「お父様がね、おっしゃったの。私に本当に好きな相手と一緒になってほしいって。たとえ、それが公爵家に何の利をもたらさない相手でも構わないって」

「……それって、すごいことだよね。なかなか言えないよ。ましてやクイーンズ公爵家は、普通の貴族とは格が違うんだから」

マリーは目を細めた。

「愛されてるんだね、ローラ」
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