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クイーンズ公爵領の南部地方は、穀倉地帯が広がる豊かな土地だ。

公爵の屋敷がある中央部からは、馬車で半日ほどかかる。

「もちろん、ずっと行きっぱなしだと私も不安だから、様子を見てきてくれるとありがたいんだけど。駄目かしら?」

「そうですね。俺も南部の様子は気になっていましたし、お役に立てることがあるかもしれません」

ユリウスは頷いた。

「本当?ありがとう!」

嬉しくなって、私は思わずユリウスの手を両手で握りしめた。

「その代わり、俺が南部に行っている間、この屋敷に守護神をお呼びします」

「守護神?」

私が目を丸くしていると、ユリウスは唇の端を軽く持ち上げた。

「マリー・ルークス侯爵令嬢です」

「マリーが!?やったー!」

ますます嬉しくなって、私は子どものようにその場で飛び跳ねた。

「全然会ってなかったから、元気にしてるかなって思ってたの。マリーがうちに来てくれるなら、私も安心よ」

「そうですね。ローラ様をお守りする力の強さは、あの方をおいて右に出る者はありません」

謎のリスペクトがあるらしく、ユリウスはうんうんと頷いている。

「気晴らしと言っては何ですが、そろそろ王立学院のほうにも顔を出してみてはいかがですか。今回の件でしばらくナイト家は静かになるでしょうし、噂も消えつつある頃合いかと」

「えっ、学校行っていいの?」

「ローラ様がお望みなら、主治医として許可します」

「ありがとう~。久しぶりだから緊張しちゃう」

「無理される必要はありませんよ。勉強なら俺がここで教えることもできますので」

「ユリウスが家庭教師?やだ~厳しそうだもん」

「そうですね。あまりに出来が悪いときは、お仕置きします」

ユリウスは不敵に目を光らせると、私がつかんでいた手を自分のほうに引き寄せて言った。

「いずれにせよ、俺のいないところで無茶はしないでください。約束ですよ」

「大丈夫よ~無茶なんてしないって」

「あなたの大丈夫は、なかなか信用できないですからね……」

呟くと、ユリウスはがしがしと頭をかいた。
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