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「お父様……」

涙が出そうだった。

もう一枚の手紙は委任状で、『レオナルド・クイーンズはローラ・クイーンズに全権を委任する』と記載があり、サインされていた。

私は顔を覆って、ソファーに座り込む。

「エマさん。温かい紅茶をお願いします」

「はい、今すぐに」

エマが部屋を出ていき、私は震える手で手紙を見せた。

ユリウスはすぐに目を通すと、「……なるほど」と頷いた。

「俺も公爵のご意見に賛成です。ロベルト様との晩餐会の当日に放火とは、タイミングがよすぎる。公爵の動きを制限し、あなたと分断するためのものと考えて間違いないかと」

「ロベルト叔父様が、そんなことをするなんて……」

昔は一緒に遊んでくれたこともあるのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

「ローラ様。出立まで時間がありません。ご不安でしょうが、晩餐会でのお話について打ち合わせておいたほうがいい」

それから私とユリウスは、屋敷を出るまでずっと作戦会議をした。

馬車に乗ってからも、何を話すか、何を話さないか、相手の出方がこうだったらこちらはこうする……など、綿密なシュミレーションを行った。

おかげでギルバートお兄様のことを考えて、不安にならずにすんだ。

「……ユリウス。私、決めたわ」

二の腕まである長い手袋をはめ、その上に指輪をはめて、私はユリウスをまっすぐ見た。

「私は戦う。ロベルト様と」

初めて感じた、本物の怒りだった。

「私のことはいい。傷ついても苦しんでも、全部自分の力に変えていくから。でも、お兄様に危害を加えたり、お父様やお母様に辛い思いをさせたのが本当にロベルト叔父様なら、許すことはできない。
私の大事な人は、何があっても守り抜く。そのためなら全力で戦うわ」

私の決意が伝わったのか、ユリウスは真剣な瞳で頷いた。

そして、私の手を取る。怒りと不安に、小刻みに震えている私の手を。

「そのお考えは、とてもあなたらしいと思います」

その手が肩に回り、とんとんと背中をさする。

「深呼吸してください。息を吐いて……吸って……。その調子です」

気づかないうちに息が止まっていたらしく、私は思いきり息を吐き、新鮮な空気を吸い込む。

体が少しだけリラックスして、微笑むことができた。

「また見守っててくれる?」

「もちろん。俺はあなたの主治医ですから」

本当に、これほど心強いことってない。隣にユリウスがいてくれるだけで、私は頑張れる。

さあ、こそこそ影で卑怯な真似をしている叔父様と、決着をつけようじゃない!
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