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「ええー!? ローラちゃんが、ナサニエル殿下のお嫁さんに?」
「ちょ、お母様!声が大きいです。しーっ」
私は慌てて人さし指を立てた。
お母様は頬をバラ色に紅潮させ、目をキラキラさせている。
「殿下ったら、抜け目ない方だわ。ローラちゃんが婚約破棄になった瞬間、婚約を申し出てこられるんだもの」
「いや、婚約というのではなく、単に噂を回して私を助けようとしてくださっているだけですわ」
私は説明を繰り返したが、根っからの乙女で恋バナ好きのお母様は全然聞いていない。
「それで、お前自身はどうなんだ?ローラ」
お父様に尋ねられて、私はなぜかぎくりとした。
いつもなら、面白がるように笑っているはずのお父様が、今は真剣な顔で私を見つめている。
ううん、私だけじゃない。その瞳は、後ろに控えているユリウスのことも見つめていた。
「……分かりません。私はつい最近まで、アレックスと結婚すると思っていました。それが急になくなって、今は気持ちの整理をして前に進もうとしているところです。王子のお申し出はありがたいのですが……」
「今は、恋だの愛だの考えている余裕はないってことか」
「はい、おっしゃるとおりです」
私は頷いた。
しばらく黙って考え込んでいたお父様は、ややあって口を開いた。
「ローラ。お前にとって、結婚とは何だ?」
「え……」
唐突な質問に、私は口ごもった。
「それは……貴族にとって結婚は、家同士の結びつきを強めるための手段です」
「そうだな。正解だ。だが俺は、ローラには好きな相手と結婚して、幸せになってほしいと思っている。ローズも同じ考えだ」
お父様の隣で、お母様が頷いている。
「アレックスと婚約したとき、お前は6歳だった。まだ恋も知らないし、男を選ぶ目もなかったと思う。早い段階で決められた相手だからこそ、時間をかけてお互いを知り、信頼し合う関係を築いてほしいと思っていた。
だが、お前はもう16だ。成人した女性であり、意志もあれば信念もある。
俺はお前に、自分で結婚相手を選んでほしいと思っている。俺たちが決めた相手ではなく、自分が好きになった相手と結婚してほしい。それが、どんな身分や地位の人間でも、お前の意志を尊重する。
……これは、アレックスとの婚約と婚約破棄で傷つけてしまったことの、せめてものお詫びだ」
お父様は神妙な表情で言った。
「ちょ、お母様!声が大きいです。しーっ」
私は慌てて人さし指を立てた。
お母様は頬をバラ色に紅潮させ、目をキラキラさせている。
「殿下ったら、抜け目ない方だわ。ローラちゃんが婚約破棄になった瞬間、婚約を申し出てこられるんだもの」
「いや、婚約というのではなく、単に噂を回して私を助けようとしてくださっているだけですわ」
私は説明を繰り返したが、根っからの乙女で恋バナ好きのお母様は全然聞いていない。
「それで、お前自身はどうなんだ?ローラ」
お父様に尋ねられて、私はなぜかぎくりとした。
いつもなら、面白がるように笑っているはずのお父様が、今は真剣な顔で私を見つめている。
ううん、私だけじゃない。その瞳は、後ろに控えているユリウスのことも見つめていた。
「……分かりません。私はつい最近まで、アレックスと結婚すると思っていました。それが急になくなって、今は気持ちの整理をして前に進もうとしているところです。王子のお申し出はありがたいのですが……」
「今は、恋だの愛だの考えている余裕はないってことか」
「はい、おっしゃるとおりです」
私は頷いた。
しばらく黙って考え込んでいたお父様は、ややあって口を開いた。
「ローラ。お前にとって、結婚とは何だ?」
「え……」
唐突な質問に、私は口ごもった。
「それは……貴族にとって結婚は、家同士の結びつきを強めるための手段です」
「そうだな。正解だ。だが俺は、ローラには好きな相手と結婚して、幸せになってほしいと思っている。ローズも同じ考えだ」
お父様の隣で、お母様が頷いている。
「アレックスと婚約したとき、お前は6歳だった。まだ恋も知らないし、男を選ぶ目もなかったと思う。早い段階で決められた相手だからこそ、時間をかけてお互いを知り、信頼し合う関係を築いてほしいと思っていた。
だが、お前はもう16だ。成人した女性であり、意志もあれば信念もある。
俺はお前に、自分で結婚相手を選んでほしいと思っている。俺たちが決めた相手ではなく、自分が好きになった相手と結婚してほしい。それが、どんな身分や地位の人間でも、お前の意志を尊重する。
……これは、アレックスとの婚約と婚約破棄で傷つけてしまったことの、せめてものお詫びだ」
お父様は神妙な表情で言った。
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