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結局クロードがとりなしてくれて、さすがに部屋に入れるわけにいかないから応接間に通してもらって、私はイクスと対面した。

「お久しぶりね、イクス。来てくれてありがとう」

そう言っただけで、イクスの青い目にじわりと水の膜が張った。

「ローラ様……」

どっと涙が溢れ、それ以上言葉が続かないのか、イクスは肩を震わせてしゃくり上げている。

私は近づいて、ぽんぽんと背中をさすった。

イクスはお兄さんのアレックスと違って、小さなころから真面目で、少しおとなしくて純粋な子だった。

私が学院に入るころには、あまり一緒には遊ばなくなったけど、変わっていないことにほっとした。

「ほっぺた、怪我してるわね。大丈夫?」

さっき地面に取り押さえられたとき、こすったのだろう。軽く切れて血が出ている。

「大丈夫です、このぐらい」

「駄目よ、こすっちゃ。ユリウス、手当してあげて」

こういうところは、ユリウスもプロだ。

私が言うよりも早く、薬箱から消毒液と布を出して、てきぱきと処置を終えた。

しばらくすると、イクスはようやく口を開いた。

「……このたびは、僕の兄・アレックスが最低の行動を取り、結果としてローラ様を傷つけてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

テーブルに頭がつくくらい、深く頭を下げている。

「謝らないで、イクスは何も悪くないんだから。ね?顔を上げて」

「いえ、こうしなければ気がすみません。この世で最も愚かな兄に代わって、僕がお詫び申し上げます」

私は目を丸くした。

3つ上の俺様な兄・アレックスに対して、イクスは基本的には従順だったはず。

こんなふうに、公然と兄に反感を示す発言は初めて聞いた。

「僕が謝ったところで、何にもならないことは分かっています。だけど、せめて謝りたかった。ローラ様は僕に二度と会いたくないだろうことも重々分かっていました。最悪、殺されるかもしれないと思って来ました」

イクスの手が震えている。怒りにか、恐怖にか。

「それほどの覚悟で来てくれたのに、追い返そうとしてごめんなさい。手荒な真似を許してちょうだいね」

「いえ、とんでもありません。兄がしたことを考えれば、当然のことです。それどころか、お目にかかる機会をいただけて……感謝しかありません」

私は目を細めた。

イクスは、アレックスのことは別として、私の気持ちを思いやってくれてたんだ……。

「兄は最低な人間です。取り返しのつかないことをしました。僕は兄を許すことができません。そして、兄とアンナ嬢との結婚を認め、いまだに兄をナイト家の次期当主としようとしている母も許せません」

「許せないから、家出をしてこられたんですか?」

ユリウスが辛辣に言った。

私が眉を寄せたのを見て、「いいんです」とイクスは手を振った。

「嫌だ嫌だと子供のように言っているだけでは、何も変わりませんよね。僕は本日をもって、ナイト伯爵家を離脱しました。いわゆる勘当の身です」

「え!?」

イクスが、ナイト家を出た……!?
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