31 / 151
31
しおりを挟む
「私は、友達を作るのが上手ではありません。人当たりがよくない、気むずかしい人間だと周囲には思われています。愛想よく笑ったり、お世辞を言ったりすることが苦手で、今までたくさんの誤解を受けてきました。
ナサニエル王立学院2年生に上がったころ、私に言い寄ってきた同級生がいました。
何度かお断わりすると、彼はご自分の親に言いつけて、正式な縁談を我がルークス家に持ちかけました。
それでもお断わりすると、今度は私を誹謗中傷する噂をクラスメイトや関わりのある方々に手紙で送りました。
『マリー・ルークスは、実は精神に異常をきたしている。彼女は突然、周囲の人間に暴力を振るい、暴言を吐く。
結婚相手になるはずだった男子生徒は、彼女を支えるために献身的に尽くしていたが、顔を何発も殴られたことがきっかけで、この縁談は破談になった』というものでした。
……実際は、私に言い寄ってきた男子生徒が、我が家のメイドの尊厳を踏みにじる発言をし、無理やり手を出そうとしたため、私が割って入ったというのが真実でした。
その場で彼の頬を一度だけたたくと、彼は泣きながら逃げ帰りました。
私はこの事件を公表するつもりでしたが、メイドから事を荒立てないでほしいと頼まれたこと、そして大ごとにするのは相手のためにもよくないだろうと思い、仕方なく黙っているつもりでした。
ところが、この根も葉もない嘘によって、私は翌日から暴力女のレッテルを張られ、クラスメイトから無視されるようになったのです」
澄んだ声で、淡々と話すマリーの表情は落ちついている。
確かに2年生のころ、マリーは1人でいることが多かったけれど、そんなことがあったなんて……知らなかった。
「一番ショックだったのは、誰一人、私に直接そのことを聞いてこなかったことです。質問してくれれば、それは嘘だと訂正することもできます。しかし、誰もそうはしてくれませんでした。
遠巻きにして、ひそひそ噂話をして、私が通りかかるとさっと顔をそむけて逃げていく。
みんなは今ここにいる私の言葉よりも、誰から聞いたか分からないような噂話や嘘を信じるのだと思い、人が信じられなくなりました。
……そんなときに声をかけてくれたのが、ローラ様でした」
え、私?
心当たりが全くなく、私は目をぱちぱちさせた。
「ローラ様は噂が流れた後も、全く気にすることなく私に話しかけてくださった、唯一の方でした。
私がお世辞を言えないことも、『マリーの言葉はいつも真っすぐだから、信頼できる』とおっしゃってくださいましした。そして、『マリーが怒るのはいつも、自分のためじゃなく、他の誰かのためだ』と言って、私のことを理解してくださいました。
私はその言葉に、離れず一緒にいてくださったことに、どれほど救われたか分かりません。
ローラ様がいなければ、私はあのとき死んでいたかもしれません。少なくとも、人を信じて関係性を築くことは放棄していたでしょう。
ローラ様は、私の恩人です。心から感謝しています」
マリーは私の目を見て、はっきりと言った。
こんなに素敵な言葉をもらえるなんて……思わなかった。
「ローラ様とアレックス様のご結婚中止に、どんな事情があったのか、私には分かりません。ただ、今ここにアレックス様がいないことを、残念に思います。
結婚とは、2人で人生を共に歩むこと。ローラ様は、今日この日、たった1人で責任を最後まで果たされました。
できることなら、私はアレックス様のお考えもぜひ伺いたいと思います」
だいぶ攻めた発言に、大広間がざわつく。
目が合うと、マリーは大胆不敵な笑みを浮かべた。
「最後に、私はまだ結婚していませんが、先輩夫婦であるお父様とお母様の言葉をお伝えします。
『結婚はゴールではなく、始まりである。そして、結婚せずにお別れすることになっても、決して無駄ではない。
結果はどうあれ、一人の方を愛することができたのは、その方の優しさや愛情深さ、心の豊かさの証明だ』と。
……ローラ様のこれからの人生が、ますます幸多きものになることをお祈りし、永遠の友情をここにお誓いして、ご挨拶とさせていただきます。
ローラ様、ご清聴いただきました皆さま、本当にありがとうございました」
私は立ち上がり、マリーのために真っ先に拍手した。
すると大広間に再び、割れんばかりの拍手喝采が満ちた。
ステージをおり、席に戻ってきたマリーは私を強くハグしてくれた。
「ありがとう。ありがとう、マリー……」
こんな大好きな、素敵な友達がいて、私は幸せ者だ。
拍手が鳴りやまない中、私たちは強い絆を感じながら、ぎゅっと抱きしめ合った。
ナサニエル王立学院2年生に上がったころ、私に言い寄ってきた同級生がいました。
何度かお断わりすると、彼はご自分の親に言いつけて、正式な縁談を我がルークス家に持ちかけました。
それでもお断わりすると、今度は私を誹謗中傷する噂をクラスメイトや関わりのある方々に手紙で送りました。
『マリー・ルークスは、実は精神に異常をきたしている。彼女は突然、周囲の人間に暴力を振るい、暴言を吐く。
結婚相手になるはずだった男子生徒は、彼女を支えるために献身的に尽くしていたが、顔を何発も殴られたことがきっかけで、この縁談は破談になった』というものでした。
……実際は、私に言い寄ってきた男子生徒が、我が家のメイドの尊厳を踏みにじる発言をし、無理やり手を出そうとしたため、私が割って入ったというのが真実でした。
その場で彼の頬を一度だけたたくと、彼は泣きながら逃げ帰りました。
私はこの事件を公表するつもりでしたが、メイドから事を荒立てないでほしいと頼まれたこと、そして大ごとにするのは相手のためにもよくないだろうと思い、仕方なく黙っているつもりでした。
ところが、この根も葉もない嘘によって、私は翌日から暴力女のレッテルを張られ、クラスメイトから無視されるようになったのです」
澄んだ声で、淡々と話すマリーの表情は落ちついている。
確かに2年生のころ、マリーは1人でいることが多かったけれど、そんなことがあったなんて……知らなかった。
「一番ショックだったのは、誰一人、私に直接そのことを聞いてこなかったことです。質問してくれれば、それは嘘だと訂正することもできます。しかし、誰もそうはしてくれませんでした。
遠巻きにして、ひそひそ噂話をして、私が通りかかるとさっと顔をそむけて逃げていく。
みんなは今ここにいる私の言葉よりも、誰から聞いたか分からないような噂話や嘘を信じるのだと思い、人が信じられなくなりました。
……そんなときに声をかけてくれたのが、ローラ様でした」
え、私?
心当たりが全くなく、私は目をぱちぱちさせた。
「ローラ様は噂が流れた後も、全く気にすることなく私に話しかけてくださった、唯一の方でした。
私がお世辞を言えないことも、『マリーの言葉はいつも真っすぐだから、信頼できる』とおっしゃってくださいましした。そして、『マリーが怒るのはいつも、自分のためじゃなく、他の誰かのためだ』と言って、私のことを理解してくださいました。
私はその言葉に、離れず一緒にいてくださったことに、どれほど救われたか分かりません。
ローラ様がいなければ、私はあのとき死んでいたかもしれません。少なくとも、人を信じて関係性を築くことは放棄していたでしょう。
ローラ様は、私の恩人です。心から感謝しています」
マリーは私の目を見て、はっきりと言った。
こんなに素敵な言葉をもらえるなんて……思わなかった。
「ローラ様とアレックス様のご結婚中止に、どんな事情があったのか、私には分かりません。ただ、今ここにアレックス様がいないことを、残念に思います。
結婚とは、2人で人生を共に歩むこと。ローラ様は、今日この日、たった1人で責任を最後まで果たされました。
できることなら、私はアレックス様のお考えもぜひ伺いたいと思います」
だいぶ攻めた発言に、大広間がざわつく。
目が合うと、マリーは大胆不敵な笑みを浮かべた。
「最後に、私はまだ結婚していませんが、先輩夫婦であるお父様とお母様の言葉をお伝えします。
『結婚はゴールではなく、始まりである。そして、結婚せずにお別れすることになっても、決して無駄ではない。
結果はどうあれ、一人の方を愛することができたのは、その方の優しさや愛情深さ、心の豊かさの証明だ』と。
……ローラ様のこれからの人生が、ますます幸多きものになることをお祈りし、永遠の友情をここにお誓いして、ご挨拶とさせていただきます。
ローラ様、ご清聴いただきました皆さま、本当にありがとうございました」
私は立ち上がり、マリーのために真っ先に拍手した。
すると大広間に再び、割れんばかりの拍手喝采が満ちた。
ステージをおり、席に戻ってきたマリーは私を強くハグしてくれた。
「ありがとう。ありがとう、マリー……」
こんな大好きな、素敵な友達がいて、私は幸せ者だ。
拍手が鳴りやまない中、私たちは強い絆を感じながら、ぎゅっと抱きしめ合った。
0
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる