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海賊・山田磯子郎

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「まあ海賊といってもあの有名な漫画に出てくるアレ とはちょっと違うんだけどな」

 と言うと?

「樺太が日本領だった頃に海沿いの街で生まれた祖父は、終戦前後にソ連から物品を横流ししたり、商船からミカジメ料を取ったりする、いわゆる海のヤクザのような仕事をしてた。
 ウケが良いから、この話する時には海賊って言ってるけどね」

 あー、そう言う事。

「まぁとにかく磯子郎は札付きのワルだったんだが、ひょんな事から青森でも有数の商家の大富豪、田中家の一人娘と恋に落ちる」

 また唐突だな。

「田中家の一人娘として大事に育てられた箱入り娘にとって、うちのじいちゃんのような人間は初めてでワイルドさが気に入ったのだろうなぁ」

 まあ令嬢のお嬢様が不良っぽい男性に惹かれる気持ちはわからなくもないけど。

「と言う事で2人は恋に落ちたんだが当然、彼女の親はヤクザみたいなじいちゃんと一緒になることを大反対した」

 まあ私が彼女の親なら絶対そうするわ。

「しかし反対されると逆に盛り上がるのが恋心と言うもの。
 2人は駆け落ちでじいちゃん磯子郎の実家の樺太まで逃げてしまい、根負けした彼女の父親は2人の結婚を許可した。
 かくしてじいちゃんは婿養子として田中磯子郎を名乗る事になったんだ」

 ふむ、それで「山田だったかもしれない」か。

「めでたしめでたし、と言えればよかったのだが、そもそも海賊を自称するじいちゃんは根っからの遊び人。
 田中家の資産を元に新たな商売、主に相場に手を出すんだが、ことごとく失敗。
 結局財産を全部食いつぶしてしまったんだ」

 どっひゃあ。

「なのでボクの父は富豪と貧乏、両方を経験してるらしい。
 次はそんな話をしようか」

 あれ、もう磯子郎の話終わり?
 もっと色々聞きたかったけど。

「あいにくボクが今知ってるのはこれくらいでね、機会があったら親父に聞いておくよ」

 そう言って父、田中光は笑顔を浮かべ、

「その代わりと言ってはなんだが深雪、我が父である田中忠次ちゅうじのエピソードなら色々聞かされてるから期待してくれ」

 私から見て父方の祖父にあたる人か。

 この人も色々濃くて祖父の奥さんが事あるごとに「お人よしのクズ」認定してたもんなあ。
 私にはいつも優しくしてくれて悪い印象は持ってないんだけど何だろう、孫の私から見ても女を泣かせるオーラがプンプン漂ってると言うか。
 
 
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