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恋愛編

-4℉(変なマスコット)

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「おはようレンくん!」

 お?エイコさんが自分から声をかけてきた。
 しかも朝なのに上機嫌だ。

 おそらくその秘密は手にした青い球体のソレだと思われるが。

「どうしましたレンくん?
 いつもの三割増しぐらい変な顔してますけど」
 いや普段の僕、どんな顔なんですかねえ!

「いやエイコさん……気に入ったの、ソレ?」
「ああコレですね。
 そう、レンくんにはお礼を言わなければいけないのです」

 あーうん。
 先日エイコさんに、僕が好きな作り物の作品のベストをと言われたので、子どもから大人まで見ている人気アニメを紹介した。

 そして手にしている青色の球体は、その作品の登場キャラなんだけど。
 モブもモブ、しかもその目つきが気持ち悪いと不人気のキャラだった筈なんだけど。

「やはり食わず嫌いは良くないですね。彼との出会いは運命なのです」

 そうか、気に入ったのかエイコさん。
 好みは人それぞれだし、女子がキモ可愛い系に傾倒しがちなのも知ってるし……まあいいんじゃないかな?

「レンくん変な顔が五割増しになりましたが、気分でも悪いのですか?」

 アンタのセンスが悪いんだよ!
 とは流石に言えない。

「それとも悪いのは頭の方ですか?
 良い精神科医を紹介しましょうか」

 と微かにエイコさんが笑顔を浮かべながら言ってくる。
 ご機嫌なせいか無自覚の悪口が絶好調だな、おい。

「というか、そのキャラのぬいぐるみなんて売ってたんだ」

 そもそも不人気すぎて関連グッズすら出回ってるの見た事ないぞ?

「いえ売ってませんけど?」
「えっじゃあソレって」
「作りましたけど?」

 え作ったの!?自作??
 縫合とか普通に売っててもおかしくない出来だぞ?

「初めてのぬいぐるみ制作でしたが、何とかなるもんですね」

 しかも初めてときた!

 確かにエイコさんは成績優秀でスポーツも万能、様々な習い事もしてるスーパーウーマンだと噂では聞いたことがあるけど……天才っているんだなあ。

「つかぬ事を聞くけど、エイコさんて将来の夢とかある?」
「夢?んー夢ですか……」

 僕の問いにエイコさんはしばし考えて。

「そもそも皇族である以上目立つので、何かの職業につくのが困難なんですよね」

 そりゃそうだな。
 例えばファミレスやコンビニで、やんごとなき身分の人が接客してたらビビる。

「なので現実的に言えば、皇籍から抜けて誰かのお嫁さんになる事でしょうか」

 それだけの才能を持っていながら、勿体無いとは思うけど。

「あれ、でも霰子さんこさん……エイコさんのお姉さんって確か色んな福祉事業の相談役とかやってたような」
「……だから現実的にと言ったでしょう、馬鹿なんですか?」

 口調こそ変わってないが、明らかに不機嫌な様子でエイコさんがそう言う。
 あれ、今怒らせるような事言ったかな。

「私の事は私が一番分かってます。
 あれはコミュ力のあるお姉様だから出来るのであって、毒を吐く私の性格で務まると思いますか?」

 ああうん、無理ですね。

「ごめん、僕今考えなしに……」
「……済まないと思うなら、責任取りますか?」
「せ、責任?」
「そうですね、例えば私を嫁に貰うとか?」

「……流石に冗談だよね?」

 エイコさんの事は嫌いじゃないけど、流石に恋人関係もすっ飛ばしていきなり結婚とか非現実過ぎる。

「……当たり前じゃないですか。
 あなたみたいな凡人が軽々しく皇族と結婚出来るとでも?
 まあ私はそれでも全然構わないけどね、他に話の合いそうな人もいないし

 後半ゴニョゴニョなんか言ったのは聞き取れなかったが、うん身の程知れって事ですね。
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