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マイケル・ランバートは焦っていた。
なぜならば今日は大事な商談があるからだ。
相手はもちろん、この国の王様である。
王様といっても、もちろん先代の王だ。
先々代やそれ以前の王の事はよく知らないが、現在の王には、もう十年以上も会っていない。
ランバートは商人としての自分しか持たぬ男であり、それ以外のものは一切信用していない。
だからこそ、自分の仕事に自信があったし、自分の価値を信じてもいた。
そしてその自分の価値を、この国で最高値にまで引き上げることこそが、ランバートにとって最も重要な仕事だった。
ランバートは商人として生きるにあたり、二つのルールを持っている。
一つは自分の命よりも大切な、商売のルール。もう一つは絶対に守ると決めている、もう一つの商売のルール。
ランバートは、自分が定めた二つ目のルールを破っていた。
それが、現在の王のご機嫌取りである。
ランバートは先代の王が嫌いではない。
だがそれは、あくまで商売人としての話だ。
この国に暮らす国民の一人として、今の王に思うところは何もない。
この国で生きるにあたって、ランバートが最も大切にしているものは何か? そう問われれば、やはり金と答えるべきだろう。
金のためには何でもする。
金のためならば、どんな汚い手でも使う。
ランバートという男はそういう人間だった。
そしてそんな男が、商売の神様に愛されるはずもない。
「あー……くそっ」
ランバートは頭を抱えた。
どうにも調子が悪い。
ここ最近ずっとこんな感じなのだ。
何か大きな失敗をしたわけではない。
だが小さなミスが続き、それが積み重なり、結果として大きな損失を出してしまうのだ。
「…………」
ランバートは大きなため息をつくと、気分転換も兼ねて散歩に出ることにした。
ランバートの家は王都の一角にある。
王城から少し離れた、貴族街と呼ばれる区域だ。
貴族街の中を流れる川は、王城の城壁の中へと流れ込んでいる。
川のほとりを歩いていくと、城壁の向こう側に王都を一望できる丘に出た。
丘の上からは、王宮の一部が見えていた。
「あれ?」
ふと気付くと、目の前に一人の少年がいた。
年の頃は十五、六だろうか。
長い銀髪が特徴的な美しい少年だった。
彼は、どこか遠くを見つめるようにして立っていた。
「あの……どうかされましたか?」
「え?」
ランバートに声をかけられて、少年は初めてその存在に気付いたかのように振り返った。
「ああ、いえ。すみません。ちょっと考え事をしていて……」
少年は苦笑した。
「あの……失礼ですけど、あなたはこの国の人ですか?」
「はい、そうですよ」
「じゃあ、ひょっとしたらお会いしたことあるかもしれませんね」
「……さぁ、どうでしょう」
少年の言葉の意味が分からず、ランバートは首を傾げた。
「私には分かりません。だって私はこの国の人間じゃないんです」
「え?どういうことです?」
ランバートは混乱した。
さっきこの国の人だと言ったじゃないか、意味がわからない。
「私は異世界から来たんです」
「……はぁ」
ランバートは思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「信じてもらえませんか?」
少年は苦笑すると、寂しそうに俯いた。
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
ランバートは慌てた。
目の前にいる少年の態度からは悪意や敵意といったものを一切感じなかったからだ。
いやむしろ友好的すぎるくらいに思えた。
だからこそ困惑していた。
(こいつの目的は何だ……?)
そんなことを考えているうちに、少年の興味は別のものに移っていたようで……
なぜならば今日は大事な商談があるからだ。
相手はもちろん、この国の王様である。
王様といっても、もちろん先代の王だ。
先々代やそれ以前の王の事はよく知らないが、現在の王には、もう十年以上も会っていない。
ランバートは商人としての自分しか持たぬ男であり、それ以外のものは一切信用していない。
だからこそ、自分の仕事に自信があったし、自分の価値を信じてもいた。
そしてその自分の価値を、この国で最高値にまで引き上げることこそが、ランバートにとって最も重要な仕事だった。
ランバートは商人として生きるにあたり、二つのルールを持っている。
一つは自分の命よりも大切な、商売のルール。もう一つは絶対に守ると決めている、もう一つの商売のルール。
ランバートは、自分が定めた二つ目のルールを破っていた。
それが、現在の王のご機嫌取りである。
ランバートは先代の王が嫌いではない。
だがそれは、あくまで商売人としての話だ。
この国に暮らす国民の一人として、今の王に思うところは何もない。
この国で生きるにあたって、ランバートが最も大切にしているものは何か? そう問われれば、やはり金と答えるべきだろう。
金のためには何でもする。
金のためならば、どんな汚い手でも使う。
ランバートという男はそういう人間だった。
そしてそんな男が、商売の神様に愛されるはずもない。
「あー……くそっ」
ランバートは頭を抱えた。
どうにも調子が悪い。
ここ最近ずっとこんな感じなのだ。
何か大きな失敗をしたわけではない。
だが小さなミスが続き、それが積み重なり、結果として大きな損失を出してしまうのだ。
「…………」
ランバートは大きなため息をつくと、気分転換も兼ねて散歩に出ることにした。
ランバートの家は王都の一角にある。
王城から少し離れた、貴族街と呼ばれる区域だ。
貴族街の中を流れる川は、王城の城壁の中へと流れ込んでいる。
川のほとりを歩いていくと、城壁の向こう側に王都を一望できる丘に出た。
丘の上からは、王宮の一部が見えていた。
「あれ?」
ふと気付くと、目の前に一人の少年がいた。
年の頃は十五、六だろうか。
長い銀髪が特徴的な美しい少年だった。
彼は、どこか遠くを見つめるようにして立っていた。
「あの……どうかされましたか?」
「え?」
ランバートに声をかけられて、少年は初めてその存在に気付いたかのように振り返った。
「ああ、いえ。すみません。ちょっと考え事をしていて……」
少年は苦笑した。
「あの……失礼ですけど、あなたはこの国の人ですか?」
「はい、そうですよ」
「じゃあ、ひょっとしたらお会いしたことあるかもしれませんね」
「……さぁ、どうでしょう」
少年の言葉の意味が分からず、ランバートは首を傾げた。
「私には分かりません。だって私はこの国の人間じゃないんです」
「え?どういうことです?」
ランバートは混乱した。
さっきこの国の人だと言ったじゃないか、意味がわからない。
「私は異世界から来たんです」
「……はぁ」
ランバートは思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「信じてもらえませんか?」
少年は苦笑すると、寂しそうに俯いた。
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
ランバートは慌てた。
目の前にいる少年の態度からは悪意や敵意といったものを一切感じなかったからだ。
いやむしろ友好的すぎるくらいに思えた。
だからこそ困惑していた。
(こいつの目的は何だ……?)
そんなことを考えているうちに、少年の興味は別のものに移っていたようで……
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