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食う寝るダンサーズの一員の僕は、食べ終わったら居間の絨毯で転がっていた。

ごろごろ……。
ごろごろ……。
「ん」
「なに」
「ちょっとだるいだけ……」
「……あんた最近ずっとそんなね。少しは外出たらどうなのよ?」
「……やだ……」
俺はごろっと寝返りをうつ。

ふらっとキッチョのオーナーでもある母さんが夕飯の片付けをしているのが見えた。妹は寝てしまったようだ。家のなかは静かだった。
「……あ、そうだ」と母さんが言ったので、俺はまたごろっと向きを変える。
母さんは居間のテーブルにことりとなにかを置いた。
……薬だ。市販の錠剤シート。
俺はろくに見もせずに、またごろりと寝返った。
横になって絨毯にほっぺたをくっつけると、土足なのでひんやりしている。ぺたりと横向きになって腕で頭を支えると、テーブルの足と俺の足が見えた。
……あれ? 俺はがばっと起き上がった。
薬は二種類あった。一シート
「ちょっと、なにしてるのよ。大丈夫?」
「……これ、なに?」
俺は錠剤シートを指差す。
「なんだって、薬でしょ?市販の」
「じゃなくて、こっち」と俺はもうひとつを指す。
母さんは「ああ」と言った。「そっちは精神安定剤よ」と、それがなにか?という口調で言うので、俺もふうんと思う。
……精神安定剤かあ。
俺はまたごろっと横になる。
「あんた最近変だから、これ飲んどいたら?」
「ん~……」
確かに最近、自分でも情緒不安定なのは分かってる。
……あ~あ、もうちょっとしっかりしないとダメだよな。
「ありがとうな」
俺は母から錠剤を貰って口に入れた。
……あれ? この薬、なんか覚えがあるんだけど……。
「なあ、これって何の薬だっけ?」
「さあ? あたしは医者じゃないし」
まあそうなんだけど……って、これもしかして!?
「なあ、この精神安定剤って、いつ飲んだ!?」
「え~っと、あの夜ね」
やっぱり!!
「これ、真姫さんが置いてったヤツだよ!!」
「なに? それマズイ薬?」
「いや、俺が飲んでも問題ないけど……」
それにしたって……。
俺は母に事の次第を話した。

「ふ~ん……。まあいいんじゃないの? これであんたも少しは落ち着くでしょ」
あっけらかんと言い放つ。

そう、それは一週間ほど前、食う寝るダンサーズの練習終わりで疲れて寝てしまった日の事。

「あれ、他のみんなは?」
「ああ、もう帰ったよ」
 と僕に答えるのは、ダンサーズのサブリーダーを努める真姫マキさん。

「え、そうなの?」
「キミをここに残してね。私はキミを家まで送っていくように頼まれたの」
「そ、そう……」
なんか気まずいなあ……。
でもまあ、一人で帰るよりかはずっといいか。

僕と真姫さんは並んで歩き出す。
「ねえ、真姫さん」
「ん?」
僕は気になったことを聞いてみた。
「あの……どうして僕のためにここまでしてくれるんですか?」
「決まってるじゃない」
真姫さんは僕の顔を見ないで、前を見て歩きながら言った。
「私はキミのことが好きだからよ」
「え……」
ええ……っ!! その言葉に僕は驚きを隠せなかった。
「ま、真姫さん……?」
真姫さんはそこで立ち止まった。僕も一緒に立ち止まる。そして振り向いた彼女の顔は夕焼けのせいか赤く染まって見えた。
「最初はただの興味本位だったけど、キミと過ごすうちにだんだん惹かれていったわ。さっきも私のことを助けてくれて、嬉しかった」
真姫さんは真剣な顔で言う。

あれは助けたというか、流れというか。
僕はどう答えればいいのか分からなかった。
「ねえ……」
真姫さんがさらに顔を近付けてくる。
そして、彼女の唇が僕の唇に触れた……。
「……っ!?」
僕は突然のことに驚いたが、同時になんとも言えない快感を覚えた。
それはほんの数秒のことだったけど、とても長く感じられた。
やがて真姫さんの唇が離れると、彼女の顔は真っ赤だった。きっと僕も同じくらい赤くなっているのだろう。
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