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掴み取った未来の果てに
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ガバッと頭を上げてイザベラは振り返る。
そこにいたのは1人の男性だった。
柔らかそうな金髪に翠色の瞳の綺麗な顔をした青年である。
知らない人間だった。
見た事の無い人間だった。
だがその身に纏う魔素は。
間違える筈などない。
間違えようが無かった。
ずっと探していたのだ。
ずっと探し続けたのだ。
見つかるはずなど無いと諦めながらも、それでも諦めきれずに。
青年はイザベラの横にしゃがむと額に付いた土を微笑みながら払った。
イザベラの瞳から再び溢れ出してしまった涙を指先で拭う。
「…今度はさ、勇者御一行じゃなくて皆を探しに行かない?
皆生まれ変わってるかもしれないし。
そして見つけたらさ、美味しい物でも食べて回ろうよ」
「ーーっ!!!!」
泣き崩れてしまいイザベラは返事が出来ない。
声など出せない程に喉が傷んだ。
声を出せば焼き切れてしまいそうな程に胸が苦しくて堪らない。
会いたかった。
探していた。
待っていた。
見付けたかった。
嗚咽ばかりで答えられないイザベラに困った様に笑いながら、少しだけ真面目な顔をして青年は口を開いた。
「それで…今度は専属魔術師じゃなくて妻としてだと嬉しいんだけど」
「……………?」
嗚咽が止まらないながらもキョトンと目を見開いたイザベラの顔を見て、青年はくすりと笑う。
笑った顔はあの頃のままで。
姿形が変わっても同じ様に綺麗なままで。
「……生まれ変わってもやっぱりフィーが好きだったよ」
照れた時に目元が染まる癖もそのままで。
「死んでも好きだったんだから、多分私は一生フィーが好きだと思うんだ」
恥ずかしくなると少しだけ声が小さくなってしまう癖もあの頃のままで。
「…一生喧嘩しないなんて言えない。
泣かせないなんて言えない。
傷付けないなんて言えない。
嫌いになる事だってあると思う。
口を効かなくなる日だってあると思う。
嫌になってさ、家出をする事だってあるかもしれない。
背中を向けて寝る日もあるかもしれない」
百戦錬磨の様な顔をして、気の利いた口説き文句の1つも言えないのも変わらない。
「でも…それでも君の隣にいたいんだ」
「……」
「いさせてくれないかな。
人生の最期に結婚して良かったって言わせてみせるから。
一生かけて頑張るから。
だから…」
最後の最後にヘタレてしまう所も。
全く変わっていない。
イザベラが答えないからか、自信がなくなったのかダメかな?と勝手に落ち込んでしまう青年に、思わず吹き出してしまった。
「……私割と決死の覚悟でプロポーズしてるんだけど」
「すいません…。
だって…勝手にヘタレだすから…」
「…そりゃヘタレもするでしょ。
これで断られたら300年以上の片思いが玉砕なんだから。
言っておくけど私転生2回目だからね。
140年前に1回転生済みだからね。
フィーがいないから独身貴族謳歌した位、割と拗らせてるから。
断られたら私多分寝込むから」
「プロポーズで脅しはどうかと思うっすねえ…。
しかも最終的に寝込むからが脅しになるのかどうかという疑問が残りますね」
「…仕方ないでしょ。
やった事ないんだから」
恥ずかしくなってしまったのか青年は目元を赤らめフィッと顔を背けてしまう。
イザベラはケラケラと笑い立ち上がった。
「しゃーないっすねえ。
まあ見本見せてあげますわ」
「経験あるの!?」
「ないっすけど自信はあります」
「…フィーの自信っていつもどこから来るのか凄く不思議になるよね」
「まあまあ。
細かい事はいいんすよ。
見てて下さい」
そう言ってイザベラは胸を張る。
すぅっと息を吸い込み大きく吐いた。
なるほど。
確かにこれは緊張するかもしれない。
だが思っている事を伝えるだけだ。
イザベラはふわりとした笑みを青年に向ける。
「好きですよ」
そこにいたのは1人の男性だった。
柔らかそうな金髪に翠色の瞳の綺麗な顔をした青年である。
知らない人間だった。
見た事の無い人間だった。
だがその身に纏う魔素は。
間違える筈などない。
間違えようが無かった。
ずっと探していたのだ。
ずっと探し続けたのだ。
見つかるはずなど無いと諦めながらも、それでも諦めきれずに。
青年はイザベラの横にしゃがむと額に付いた土を微笑みながら払った。
イザベラの瞳から再び溢れ出してしまった涙を指先で拭う。
「…今度はさ、勇者御一行じゃなくて皆を探しに行かない?
皆生まれ変わってるかもしれないし。
そして見つけたらさ、美味しい物でも食べて回ろうよ」
「ーーっ!!!!」
泣き崩れてしまいイザベラは返事が出来ない。
声など出せない程に喉が傷んだ。
声を出せば焼き切れてしまいそうな程に胸が苦しくて堪らない。
会いたかった。
探していた。
待っていた。
見付けたかった。
嗚咽ばかりで答えられないイザベラに困った様に笑いながら、少しだけ真面目な顔をして青年は口を開いた。
「それで…今度は専属魔術師じゃなくて妻としてだと嬉しいんだけど」
「……………?」
嗚咽が止まらないながらもキョトンと目を見開いたイザベラの顔を見て、青年はくすりと笑う。
笑った顔はあの頃のままで。
姿形が変わっても同じ様に綺麗なままで。
「……生まれ変わってもやっぱりフィーが好きだったよ」
照れた時に目元が染まる癖もそのままで。
「死んでも好きだったんだから、多分私は一生フィーが好きだと思うんだ」
恥ずかしくなると少しだけ声が小さくなってしまう癖もあの頃のままで。
「…一生喧嘩しないなんて言えない。
泣かせないなんて言えない。
傷付けないなんて言えない。
嫌いになる事だってあると思う。
口を効かなくなる日だってあると思う。
嫌になってさ、家出をする事だってあるかもしれない。
背中を向けて寝る日もあるかもしれない」
百戦錬磨の様な顔をして、気の利いた口説き文句の1つも言えないのも変わらない。
「でも…それでも君の隣にいたいんだ」
「……」
「いさせてくれないかな。
人生の最期に結婚して良かったって言わせてみせるから。
一生かけて頑張るから。
だから…」
最後の最後にヘタレてしまう所も。
全く変わっていない。
イザベラが答えないからか、自信がなくなったのかダメかな?と勝手に落ち込んでしまう青年に、思わず吹き出してしまった。
「……私割と決死の覚悟でプロポーズしてるんだけど」
「すいません…。
だって…勝手にヘタレだすから…」
「…そりゃヘタレもするでしょ。
これで断られたら300年以上の片思いが玉砕なんだから。
言っておくけど私転生2回目だからね。
140年前に1回転生済みだからね。
フィーがいないから独身貴族謳歌した位、割と拗らせてるから。
断られたら私多分寝込むから」
「プロポーズで脅しはどうかと思うっすねえ…。
しかも最終的に寝込むからが脅しになるのかどうかという疑問が残りますね」
「…仕方ないでしょ。
やった事ないんだから」
恥ずかしくなってしまったのか青年は目元を赤らめフィッと顔を背けてしまう。
イザベラはケラケラと笑い立ち上がった。
「しゃーないっすねえ。
まあ見本見せてあげますわ」
「経験あるの!?」
「ないっすけど自信はあります」
「…フィーの自信っていつもどこから来るのか凄く不思議になるよね」
「まあまあ。
細かい事はいいんすよ。
見てて下さい」
そう言ってイザベラは胸を張る。
すぅっと息を吸い込み大きく吐いた。
なるほど。
確かにこれは緊張するかもしれない。
だが思っている事を伝えるだけだ。
イザベラはふわりとした笑みを青年に向ける。
「好きですよ」
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