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掴み取った未来の果てに
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しおりを挟む「良くやったイザベラ!!
王妃陛下がお前が書いた本に興味を持ったと茶会に招待して来たぞ!!」
そう言って1枚の手紙を広げて喜ぶ父親にイザベラは小さくそうですかと頷き微笑んだ。
しがない貧乏子爵である父は王族から招待を受けた事が余程嬉しいのかイザベラの表情に影が出来た事に気が付かない。
「それに今年は15代目勇者御一行の御役目の年だからな。
ブームに乗ったお陰で売り上げも良いと書店から連絡が来たぞ!!!!」
「そうですか」
「まずは取り急ぎドレスだ。
もうすぐベリア商会が来る手筈になっているから採寸をして貰いなさい。
それから」
「ではまた商会の方がいらっしゃいましたらお呼び頂けますか?」
「あぁ分かった。
また呼ぶから部屋に戻っていなさい」
失礼致しますと頭を下げ執務室から自室へと戻る。
イザベラが自室のソファーに腰掛けるとメイドのルーラが紅茶を入れてくれた。
ルーラは主人の浮かない表情を見て首を傾げる。
「お嬢様。
王妃様に直々にご招待頂きましたのに嬉しくないのですか?」
「…名誉な事だと思っているわ」
「では何故そのような浮かない顔を?」
「…王宮には…色々思い入れがあるから。
行くのに緊張しているのかも」
イザベラが王宮に招かれた事はルーラの記憶にある限りはないのだが、思い入れとは一体どういう事だとルーラは眉根を寄せた。
ルーラはイザベラが生まれた時からこの屋敷で働いている為、彼女の記憶にないと言う事はイザベラは王宮を訪れた事はないはずなのである。
「お嬢様、思い入れとは…?」
「あっ…えっと本でね。
本で読んで憧れていたのよ」
「あぁ、そういう事ですか」
確かにお城は女の子の憧れですからねと微笑んだルーラにイザベラは曖昧に笑って返した。
上手く誤魔化せたと内心ホッとしながら。
「でも王妃様にまでお気に召して頂けるなんて流石はお嬢様ですわ。
私も読みましたけれどまるで本当にその場にいたかの様な臨場感でしたもの」
「そっそう?
ありがとう」
その場にいたかの様なと言う言葉にイザベラはビクリと肩を揺らすが本の内容を熱く語るルーラはそのまま続けた。
「あの謎の多い悲劇の『 12代目勇者御一行』が題材となっている事で歴史的解釈の違いや故人への冒涜となるなど批判もありますが、私はお嬢様の描かれたあのストーリーがとてもしっくり来ましたわ。
何故あれほどまでに大きな被害があったのか。
何故あの様に無茶とも無謀とも言える作戦となってしまったのか。
私はお嬢様のお書きになった本を読んでこういう事だったのかと納得してしまいましたわ」
「…私なりに歴史書を読んで解釈しただけだもの。
間違っているのは私かもしれないわよ」
「それでも今まで見た説の中で私はお嬢様の書いた本が一番辻褄があっていると思いましたもの」
「そう。
…ありがとう」
自信を持って下さいと力強く語るルーラにイザベラは小さく頭を下げた。
辻褄があっているとルーラが感じるのも無理はないだろう。
イザベラが書いたのは歴史書や資料や遺品を見て書いた物ではないのだから。
イザベラ自身の目で見た光景だったのだから。
前世のイザベラの目の前で起きた事を文章にしただけなのだから。
「そう言えば本の最後にあった友って誰なんですか?」
「ん?」
「とぼけないで下さい。
後書きの最後に『 この本を約束を果たせなかった大切な友へ贈る』と書いてあったではありませんか」
「…内緒」
「もう。
そうやって毎回はぐらかすんですから」
プリプリと怒るルーラにイザベラが吹き出しながら紅茶を口に含んだ。
淡い柑橘系の香りが仄かに鼻を擽り、窓の外からは庭園の草木の匂いを乗せた風が優しく吹き込む。
「…平和ね」
「そうですねえ」
あの頃には想像出来なかった程に平和なその光景に思わず呟くとルーラがおっとりと同意した。
あの頃にはこんな国になるなんて思いもしていなかった。
イザベラは目を閉じ思いを馳せる。
大切な約束を交わした前世の友との思い出に。
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