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いざ総力戦へ
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ガタンと言う背後から響いた音に、ラハブはゆっくりと振り返った。
右腕は折れ、ボロボロのローブを纏った薄汚れたシルフィーを視界に入れると訝しげに目を細める。
シルフィーの背に生えている羽を見てあぁと小さく頷いた。
「なるほどな…。
お前が先代のジルウェストルの子か」
「……」
「親子揃って魔族を敵に回すとは嘆かわしい」
それに答える事無くシルフィーは目線を動かした。
床に蹲り、宝玉を抱え守るようにして背中を切り裂かれているミリア。
それを庇うように覆いかぶさったまま同じく切り裂かれているアナベル。
その光景の無惨さに視界が一瞬真っ赤に染まった。
シルフィーはギュッと拳を握りしめた。
ギッとラハブを睨み付ける。
翠色の瞳には憎悪だけが映った。
「しかしお前1人で戦うのか?
この私と?」
「…だったら何すか」
「いや、無謀だなと思ってな。
そんな虫の息で」
「…やってみなきゃ分かんないっす」
シルフィーは左手でサーベルを構えた。
その武器にラハブは鼻で笑う。
「それで戦うのか?
4眷属と?」
「……」
「ハッ…話にならんな」
ラハブはやれやれと首を振ると自身も一応戦闘態勢へと変えた。
ジリッと互いに土を踏み締める音だけが塔に響く。
先に走り出したのはシルフィーであった。
「…スピードも何もかもが遅い。
これが本当にジルウェストルの子か?」
失望した様にラハブは言うと一撃で終わらせる為に指を動かした。
それを避ける事さえせずにシルフィーは突っ込み真正面からラハブの魔術を受ける。
お下げ髪と一緒に右腕が吹き飛び血飛沫が上がった。
だがそのまま疾走するとシルフィーはサーベルをラハブの顔面へと投げ付けた。
その奇妙な使い方に気を取られたのかサーベルを躱す為の反応が一瞬だけ遅れた。
その隙にラハブの懐へと滑り込み、炎を纏わせた左腕をそのままラハブの左胸へと押し当てる。
高熱により溶け始めた鎧を確認するとすぐ様懐から小瓶を数本取り出し、2人の間でカチ割った。
聖水が2人に降り注ぐ。
ラハブが一瞬動きを止め、シルフィーの身体が溶け始めるのが分かった。
だがそのままシルフィーは聖水のかかった腕を左胸へと捩じ込んでいく。
2人の肉が焼ける臭いが周囲に広がった。
脂汗を流しながら捩じ込んだシルフィーの掌が掴んだのは、ラハブの心臓だった。
ドロドロと肉体が溶けて行くシルフィーを見ながらラハブは目を見開いた。
何がしたいのか分からなかったのである。
これではただただ暫くの間、ラハブを拘束しただけだ。
「お前っ何を!?」
「……道が欲しかったんすよ」
後は、頼みますとシルフィーはニヤリと笑って呟いた。
右腕は折れ、ボロボロのローブを纏った薄汚れたシルフィーを視界に入れると訝しげに目を細める。
シルフィーの背に生えている羽を見てあぁと小さく頷いた。
「なるほどな…。
お前が先代のジルウェストルの子か」
「……」
「親子揃って魔族を敵に回すとは嘆かわしい」
それに答える事無くシルフィーは目線を動かした。
床に蹲り、宝玉を抱え守るようにして背中を切り裂かれているミリア。
それを庇うように覆いかぶさったまま同じく切り裂かれているアナベル。
その光景の無惨さに視界が一瞬真っ赤に染まった。
シルフィーはギュッと拳を握りしめた。
ギッとラハブを睨み付ける。
翠色の瞳には憎悪だけが映った。
「しかしお前1人で戦うのか?
この私と?」
「…だったら何すか」
「いや、無謀だなと思ってな。
そんな虫の息で」
「…やってみなきゃ分かんないっす」
シルフィーは左手でサーベルを構えた。
その武器にラハブは鼻で笑う。
「それで戦うのか?
4眷属と?」
「……」
「ハッ…話にならんな」
ラハブはやれやれと首を振ると自身も一応戦闘態勢へと変えた。
ジリッと互いに土を踏み締める音だけが塔に響く。
先に走り出したのはシルフィーであった。
「…スピードも何もかもが遅い。
これが本当にジルウェストルの子か?」
失望した様にラハブは言うと一撃で終わらせる為に指を動かした。
それを避ける事さえせずにシルフィーは突っ込み真正面からラハブの魔術を受ける。
お下げ髪と一緒に右腕が吹き飛び血飛沫が上がった。
だがそのまま疾走するとシルフィーはサーベルをラハブの顔面へと投げ付けた。
その奇妙な使い方に気を取られたのかサーベルを躱す為の反応が一瞬だけ遅れた。
その隙にラハブの懐へと滑り込み、炎を纏わせた左腕をそのままラハブの左胸へと押し当てる。
高熱により溶け始めた鎧を確認するとすぐ様懐から小瓶を数本取り出し、2人の間でカチ割った。
聖水が2人に降り注ぐ。
ラハブが一瞬動きを止め、シルフィーの身体が溶け始めるのが分かった。
だがそのままシルフィーは聖水のかかった腕を左胸へと捩じ込んでいく。
2人の肉が焼ける臭いが周囲に広がった。
脂汗を流しながら捩じ込んだシルフィーの掌が掴んだのは、ラハブの心臓だった。
ドロドロと肉体が溶けて行くシルフィーを見ながらラハブは目を見開いた。
何がしたいのか分からなかったのである。
これではただただ暫くの間、ラハブを拘束しただけだ。
「お前っ何を!?」
「……道が欲しかったんすよ」
後は、頼みますとシルフィーはニヤリと笑って呟いた。
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