専属魔女は王子と共に

ちゃろっこ

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渇望した物は

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食事を終えた2人はすぐ隣の書庫へと入った。
司書が飛んで来て個室へと押し込まれる。
アイザックから誰にも見られない様にと厳重な命令がされていたらしい。

部屋には既に魔術や魔族に関わりがありそうな書物が論文から絵本に至るまで持ち込まれていた。
司書の仕事が早すぎる。

その中に無ければまた探して来るからベルを鳴らせと言って司書は部屋を出て行った。

「王宮勤めってやっぱ仕事出来る人なんすね」

「まあその道のエキスパートじゃないと採用されないよね。
狭き門だし。
女官見習いはまた別だけど」

「別?」

「あれは貴族の令嬢が婚カツ目的で来る事が多いから質は低い」

「婚カツ…」

「女官見習いがベッドの中に忍び込んでたなんてよくある話だよ」

「よくあっちゃダメじゃないすか?
あーでも据え膳食わぬは男の恥か…」

「さすがに毒だと分かってて手を出しはしないけどね」

「ヘタレですね」

「…もう良いから調べるよ」

「怒ってます?」

「……いや別に」

ツンとそっぽを向いたその横顔に怒ってるやんけと思いながらも、床に敷かれたカーペットに腰を下ろし手近にあった本を手に取りパラパラと捲る。

魔族大図鑑とタイトルが書かれたその本は中々に面白い本であった。
オークとハイオーク、ハーフオークの見分け方などが丁寧に書かれており確かに魔族に詳しくなれそうである。
帯に書かれていた「これを読んで私は魔族博士になりました」と言う宣伝文は伊達じゃなさそうだ。
魔族博士と言う職業自体初耳ではあるが。

そう言えば…とシルフィーは本を急いで捲り始める。
挿絵に目を走らせ、違う、これも違うと読み飛ばす。

「……これだ」

『アリオク』と言う4文字を指でなぞる。
情報があまり無いのか詳しい説明は書かれていない。
だが挿絵に描かれた姿はまさにゼークス領で対峙した魔族そのものであった。

混沌の魔神。
4眷属の内の1人であり、西を司る。

二文しか書かれていないがやはり彼は4眷属の1人だったのだと分かる。
混沌の魔神と言うのも納得だ。
彼自身が混沌としていた。
主に性格がカオスだった。

レイモンドが横からヒョコリと覗き込む。

「…詳細は不明って事かな」

「…まあ使用する魔術や詳しい事が分かるって戦った事があるって事ですもんね。
戦って生き延びた人が誰もいないのかもしれません」

「確かにそうだね…。
彼の屠り方が分かれば良いんだけど。
あの再生能力は厄介だ」

「切ってもダメ燃やしてもダメでしたもんねえ…」

「まあそこはキース兄上達が見付けてくれる事に賭けようか…。
と言うかちょっと見てくれるかい?」

「なんすか?」

キースがズリズリと本を引き摺りシルフィーの前に置いた。
重たくて持てないらしい。
赤ちゃんって大変そうだ。

「アリオクが言っていた事が気になってね」

「なんか言ってましたっけ?
あんま聞いてなかったっす」

「さすがだよね。
何かいきなり説教始めた時だよ。
隷属の契約とか因縁の盟約とか」

「…全く記憶にないっすね」

「フィーは少しは人の話を聞いとくべきだと思う。
…まあいいや」

それでねと続けて本のページをパラパラと捲って見せる。
魔術の本だと思われるその本は酷く分厚い。
様々な魔術が書かれておりじっくりと読んでみたくなる。

「書いてないんだよね。
隷属の契約も因縁の盟約も」

「魔族しか知らない術って事ですかねえ?」

「でも私達にかかってるって言ってただろう?
思い当たるのは専属契約しか考えられない」

「まあ確かに」

レイモンドはまたパラパラと本を捲り、専属契約のページを開く。

「と言う事は本来魔族が使う隷属の契約と言う魔術を、誰かが専属契約の術だと言って広めたと言う事になるよね」

「まあそうですね」

「その人物って誰なんだろうと思ってね。
…発表者の名前を見てくれるかい?」

「えーっと…シルベスター・ジュゼット?」

「4代前の国王だね」

「…王族が魔族だったって事っすか?」

シルフィーが問うとレイモンドは首を横に振り本の文章を指さした。

「ここを見て。
彼はこの魔術を魔術師に聞き、その魔術を使って専属契約を交わしたとあるんだ。
色々見てみたけど、この国で最初に専属契約を交わしたのは彼らで間違いないと思う」

「…じゃあその魔術師が?」

レイモンドは立ち上がりよたよたと別の本を運んで来る。

「…浮遊とか使えないんすか?」

「何度か試してるんだけど出来ないんだよね。
魔素を操れる程この身体に慣れてないからかもしれない」

「なるほど…」

「まあそこは置いといて。
これが4代前の国王について書かれた本だ。
ここを見て。
彼に仕えた専属魔術師の名前だ」

その名前を見てシルフィーは目を見開いた。

『アルフォンス・ヴィンター』

シルフィーの良く知る馬鹿の名前がそこには書かれていたのである。

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