専属魔女は王子と共に

ちゃろっこ

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壊滅した都市

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「世話になったな魔女ちゃん!!
これうちのワインだ!!
飲んでってくれ!!」

「これうちのチーズとハム!!
魔女ちゃんおつまみにどうぞ」

「ありがとーございます」

「騎士さんもどんどん飲んでくれよ!!
足りてるかい?」

「おーめちゃくちゃうめぇ!!」

「だろうよ!!
うちのは去年の優勝ワインだからな!!」

ガハハと笑う大柄な男性に渡されたワインをグイッと飲み干す。
確かに美味い。
鼻に抜ける果実の香りが高く、キリッとした酸味とコクがあった。

「おー辛口で美味いっすね。
香りも果実の中に木の香りがして森の中みたいっす」

「そうだろうそうだろう!!」

「…お前そんな食レポみたいな発言出来たんだな」

「美味い物は好きなんすよ」

「見てりゃ分かる。
てかこうやっていざやってみると復興が少しは進んだって実感するな」

ワインを口に含みながら言うガウルにシルフィーも頷いた。
完全に再建出来た訳では無かったが、居住場所の目処が立ち学校も再開に漕ぎ着けた頃そろそろ次へ行こうとキースは言った。

そんなキースに領主や領民が待ったをかけた。
煌びやかな舞踏会とはいかないが、領民皆で食材を持ち寄り広場で小さなフェスティバルを開くから参加してくれないかと。
助けてくれたお礼に美味しい食事だけでも食べて行って欲しいと言われ、キースは難色を示したがシルフィーとガウルが喚いたのだ。

絶対に参加すると。
なんだったら参加した後追いかけるから先に行ってくれたって良いと。

ふざけるなと怒ってはいたが根負けし参加の運びとなったのである。
粘り勝ちである。

「…あれ?
ミリア様は?」

「あーミリア嬢ならさっき中央ステージの早縫い大会に参加してくるっつってたぞ。
優勝の景品が特産品の絹糸でどうしても欲しいんだとよ」

「はえー。
優勝出来るんすかねえ?」

「自信はあるっつってたけどどうだろうな。
まあ負けても購入は可能らしいから最悪買うんじゃね?」

「商売上手っすねえ。
あっあそこエール!!!!
ギリム社のエール!!!!!!」

「まじかよ!!
あの高い奴じゃねえか!!!!
飲むぞシルフィー…ってもう飲んでやがる!!!!」

「ふぉっ!?
何だか独特な風味と上品な甘さっすね」

「魔女ちゃん飲み慣れてるけど歳は大丈夫なのかい?」

「18っす」

「なら良かったよすまないね。
あっ新しい試みでねスパイスエールってのを試してんだ。
ちょっと飲んでっておくれよ。
騎士の兄ちゃんもいける口かい?」

「おう!!
めちゃくちゃ好き!!」

「そうかそうか。
例えばこれはコリアンダーの種とオレンジピールを漬け込んだエールだ。
こっちは唐辛子。
どっちにする?」

「俺はとりあえずコリアンダーだな。
唐辛子はちょっと怖ぇ」

「楽しそうなんで私は唐辛子貰います」

「ははっそうかい。
どうぞ。
良かったら感想を聞かせてくれよ」

2人は受け取ったエールに口を付ける。
ガウルは美味いと目を細め、シルフィーは目を見開いた。

「どうした?
やっぱ辛いのか?」

「いや辛くないっす。
全くじゃないっすけどこれ凄いっすよ!!
店長さん天才っす!!!!
こんなに食欲が沸くエールは初めてかもしれません!!!!」

「魔女ちゃん根っからの酒好きだなあ。
喜んで貰えて職人冥利に尽きるよ」

「ガウル様交換しましょう。
そっちも飲みたいっす」

「…いやだ。
お前と回し飲みとか」

「えー………」

心底嫌そうな顔をして拒否の姿勢を貫くガウルに店主が吹き出した。

「新しいのやるから落ち込むな魔女ちゃん。
色々難しい年頃なんだよな騎士さんよ」

「こいつが何も考えなさ過ぎなだけだろ」

「コリアンダーもめちゃくちゃ美味い!!
柑橘系の香りがしてハーブを混ぜ込んだ様な香りになるんすね。
素晴らしいっす」

「ははは。
いいねえ嬉しいよ」

キャイキャイと屋台で騒いでいると肩をトントンと叩かれる。
振り返ると見慣れない男性が立っていた。
太陽の様な金髪に琥珀色の瞳を持つ背の高い男性である。
誰だろうかと首を傾げるシルフィーの横でガウルが頭を下げた。

「イシュラン侯爵様、今回はこの様な会を開いて頂き」

「いいよいいよ今更畏まらないで。
泣いてる所とか恥ずかしい所沢山見られたのに今更畏まられると恥ずかしいから。
それに君達は私の恩人なんだ。
むしろ私が跪きたい位だよ」

あぁこの人が領主かとシルフィーは漸く分かった。
ローブの中にいた為に全く顔を見ていない上に爆睡していたせいで忘れ去っていた。
マークはボケッとしているシルフィーにニコリと微笑みかける。

「こんにちは魔女さん。
私はマーク・イシュラン。
大活躍だったってあちこちで耳にしたよ。
本当にありがとう。
お名前を伺っても?」

「シルフィーです」

「シルフィー嬢か。
私の事は良かったらマークと呼んでくれるかな」

「はぁ…」

シルフィーがまあ呼ぶ機会なんてないだろと思いつつ頷くとマークは微笑み、自身もエールを受け取った。

「2人ともエールはどう?
楽しめてるかい?」

「最高っすね」

「めちゃくちゃうめぇっす」

「それは良かった。
恩人である君達に楽しんで貰えなかったら一生悔やむ所だったよ」

中々に大袈裟な御仁である。
感謝の気持ちが重たすぎる。

「今ねレイモンド様と話し合って、魔獣の他にも魔術師を領内に呼び込む為の改革を進めているんだ」

「魔術師を呼び込む?」

「そう。
魔術師はその出自の複雑さと育て方の難しさから孤児になる事が非常に多い」

「まあそうっすね」

「確かシルフィーもだったよな?」

「あっすいません。
傷付ける様な発言を」

「いえ全く気にしてないっす」

「なら良かった…。
それでね、孤児院でもやはり魔術師と言うのは孤立してしまう場合が非常に多いんだ。
上手くいかなくて虐めに会い、やり返した事で魔術が暴発し大きな被害を齎してしまうケースも珍しくない。
まあだからこそそんな経験から隠れ住む様になるというのも理由として大きいんだよ」

なるほどとシルフィーは頷いた。
横でガウルがちらりとシルフィーを見ながら有り得る話だと頷く。
何を思って納得したのか詳しく教えて欲しい所だ。
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