専属魔女は王子と共に

ちゃろっこ

文字の大きさ
上 下
40 / 90
壊滅した都市

40

しおりを挟む
飛龍は卵を足の間に入れると大人しく座る。
レイモンドに「大人しくしててね」と言われていたが本当に言葉が分かるのかもしれない。

「えっと私の言葉って分かります?」

「……」

飛龍はちらりとシルフィーを見たが黙って目を閉じる。
無視をするつもりらしい。

「分かるなら尻尾を動かして欲しいんすけど」

「……」

「…このクソドラが」

ぼそりと悪態をつくと爪先で額を啄かれる。
額からタラりと血が垂れた。

「レイモンド様離して下さい。
こいつ殺します」

「じっとしてなさい」

「きゅえっきゅえっ!!」

「殺す!!
絶対殺す!!!!」

「嘲笑われた位で怒らないの。
馬鹿だこいつって言われただけでしょ」

「首へし折ってやる!!!!」

「きゅえっきゅえっきゅえっ」

「大爆笑されてるね」

「なんすかこの躾のなってない糞龍。
ペットにしてやらんでもないと思ったのに」

「きゅえい~きゅる~」

「えっ無理~。
チンチクリンはやだ~だって」

「誰がチンチクリンじゃい!!!!」

「フィーでしょ」

きゅいきゅいと飛龍が嘲笑いシルフィーは憤怒した。
この糞みたいな飛龍を躾てやらねばならんと。
駄目なら1発殴らせて欲しい。
だがレイモンドが宥めるようにどうどうと背中を撫でた。

「ちょっレイモンド様痛いっす。
手を別の場所に置けません?
背中痛いっす」

「腹はパックリ、背中は穴まみれ、額からも流血で無事な場所ないでしょ。
多分何処に置こうが痛いし既に私の手も血塗れだよ。
もう手遅れだよね」

「……入院っすかね?」

「ポーションが残ってるかどうかかな」

「まーた暇になる…」

「そうだね」

げんなりとしながらシルフィーが言うとレイモンドも遠い目をしながら答える。
退院して1週間以内に再入院する程病院好きにはなれない。

「あっミリア嬢」

「はっはい!!」

「フィーのローブの場所って分かるかい?」

「あっはい回収してありますよ。
ですが…」

レイモンドに声をかけられたミリアがおずおずとローブを差し出す。
丁度シルフィーが首を叩き切った飛龍の落下地点にあったそれは、泥水を吸い込んだ上に血と肉片でドロドロになっていた。

シルフィーからはレイモンドと彼の背後にいる飛龍しか見えない為、ローブを確認せず後ろに向かって腕だけを伸ばす。

「ナイスですミリア様。
ローブを下さい」

「あー…フィー、ローブも逝ってるみたいだよ。
なんか血と肉と泥で凄い事になってる」

「…………詰んだ」

「まあ我慢だね」

「シルフィーさん、大丈夫ですか?」

「隠さなきゃいけない程度には大丈夫じゃないかな」

「どれどれ」

ガウルがひょこっと現れローブを掴み中を覗く。
うげぇ…と小さく漏らしたのが聞こえた。
乙女の背中を見た感想としては最低である。

「…なんか血で出来た蜂の巣みたいになってる。
これはグロいな」

「だろう?」

「それ大丈夫なんですか!?」

「話し合いが終わるまでは大丈夫だと思うよ。
元気はあるし」

「心は折れてます」

「ほらね元気でしょ?」

「だな」

「良かったあ」

こいつら誰も話を聞かねえとシルフィーはむくれた。

「あっそう言えばアナベル様とは合流出来たんすか?」

「はい!!
ただ血がダメだと言う事で今は馬車で待機して頂いてます」

「血がダメなら今のお前見たら吐くんじゃねえか?」

「顔みて吐かれたら私の乙女心は粉砕するっすねえ」

「最初からねえだろそんな物」

「まあはい」

「認めちゃうんだ」

「シルフィーさんは乙女心はなくても漢気はあるから大丈夫ですよ!!
飛龍と闘う姿かっこ良かったです!!」

「全くフォローになってないっす」

「キース殿下!!
イシュラン侯爵領領主マーク・イシュラン様をお連れ致しました!!」

騎士の声が周囲に響く。
キースがそちらに視線を向け、ミリアとガウルは端へと避けた。

「遅くなって申し訳ありません。
私がイシュラン領を治めるイシュラン侯爵家当主マーク・イシュランです。
我が領地の危機に駆け付けて下さり感謝の念に耐えません。」

「良い。
とりあえず世間話は後だ。
弟のレイモンド第三王子から貴殿に話がある」

マークはキースにしか意識が向いていなかったのか、促され漸くレイモンドの方へと視線を向けた。
その背後に立つ飛龍と足元から覗く卵を包んだ布の端に気が付くと、小さく息を吐く音が聞こえる。

レイモンドはドロドロに汚れ前が見え辛くなっていた銀髪を掻き上げて、真っ直ぐに碧い瞳でマークを見詰めた。
露わになったその麗しい顏に、周囲の人々から感嘆の息が盛れたが気にせずにレイモンドは口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...