専属魔女は王子と共に

ちゃろっこ

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魔術師は最もな理由で嫌われる

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目を開けると一番に視界に飛び込んだのは陽の光を乱反射して煌めく銀糸だった。
風に弄ばれサラサラと揺れるそれは絹糸の様である。
けぶる様に長い睫毛に縁取られた碧い瞳は手元の本に視線を落とし、形の良い赤い唇は柔らかく結ばれている。

無意識なのか時折彼の細い指先がシルフィーの頭をさらりと撫でた。
だがそれに気が付かない位には目の前の光景は余りに美しかった。
教会に飾られたステンドグラスの様に。

シルフィーが起きた事に気が付いたのかレイモンドの碧い瞳がゆっくりとこちらに動き、シルフィーと目が合う。

「…綺麗っすね」

考えていた事がそのまま音になり出てしまった言葉はレイモンドの耳に届いたのか彼は一瞬目を見開いた。
まだ完全に覚醒していないらしい。
思考が酷くぼんやりしている。

レイモンドの目元が薄ら赤く染まる。
片手で口元を抑えながらシルフィーの額をペシッと軽く叩いた。

「痛っ。
…何するんすか」

「何するはこっちのセリフだよ。
人の顔まじまじ見ながら褒められたら流石に照れるから止めてくれるかな」

「照れ隠しに叩くとか子供ですかあんた」

「うるさいよ。
目が覚めたなら起きなさい。
もう昼過ぎだよ」

「…へい」

起き上がると強ばっていた身体がボキッと音を立てる。
やはり布団で寝るべきだ。
身体が痛い。

お腹がぐぅと鳴るがもう昼食は終わってしまっているだろう。
おやつに頼るしかあるまい。

カバンを漁り激辛イチゴジャムパンを取り出し齧る。
良い感じに口が痛くイチゴジャムなのに辛いという脳の混乱が楽しい一品だ。
これも当たりである。

もぐもぐとジャムパンを頬張っているとミリアと目が合った。
彼女の頬が何故か赤いがこのパンが欲しいのだろうか。

「えっいります?」

「いえ、そうではなくて…」

「…貴様凄いな」

「えっ、そこまでこれ辛くないっすよ」

「知るか。
辛い物食べられて凄いなんて褒める訳がなかろう。
というかそれ辛いのか」

「まあ激辛イチゴジャムパンなんで」

「自由人の上に味音痴か貴様。
違うわ。
先程の光景を見て顔色1つ変わらん事を褒めておるんだ」

「先程…?」

「いやもう良い。
人種が違うというか最早美醜感覚からして違うんだろう貴様は」

「美醜感覚は一緒っすよ多分。
綺麗だなー、綺麗じゃないなーは分かります」

「…なら流石に照れるとかあるだろう。
壮絶に色気がダダ漏れだったぞ。
見ろ。
ミリア嬢などまだ顔が赤いだろうが。
これが正常な反応だ。
あれを直視して真顔なのは貴様位だぞ」

「あれとは…?
…あぁさっきの照れ顔っすか。
叩かれてウザかった記憶しかありませんでした」

「魔術師はどいつもこいつもこんな感じなのか…?」

「いや知らないっす。
実験してみたら良いんじゃないですか?」

どんな実験だと言う文句を聞き流しながらもぐもぐとジャムパンを食べ進める。
レイモンドの照れ顔よりジャムパンの方が余程価値がある。
ジャムパンを詰め込むシルフィーにキースが溜息をついた。

「…他の令嬢も貴様の様なスタンスなら夜会の度に修羅場が起こるなんて悲劇もなくなるかもしれんな」

「良い事じゃないすか」

「代わりに何も生まれなくなるだろうがな。
見合いとしての機能は死ぬ」

「一長一短あるんすねえ」

「デメリットが大き過ぎるわ馬鹿者」

「何で今私罵倒されたんすか」

「何か腹が立ったからだ」

「えっ理不尽」

「気持ちは理解出来ますよ兄上」

「お前と意見が一致するのは忌々しいが、こいつとは会話が微妙に噛み合わない上にずっと小馬鹿にされてる気分になる」

「へー」

「そうこう言う部分だ。
打っても響く所かスルスル躱されて相手にされてる気にならない」

「凄く良く分かります兄上」

「仲良いっすね」

「糞…戦う前に負けた気分だ…。
忌々しい…」

「戦おうとするから腹が立つんですよ。
勝負に乗ってきませんから」

「ご馳走様でした」

パチンと手を合わせふうと息を吐く。
腹がいっぱいだ。
許されるならもう一眠りしたい所である。

「昼寝にはもってこいっすね」

「黙れ社会不適合者!!」

「まあまあ兄上落ち着いて下さい」

「シルフィーさん、さすがに先程起きられたばかりでお昼寝はキース様も憤怒されてしまいますよ」

「ですよねやっぱ。
我慢します」

「そうですね。
それが正解ですわ」

くはぁと欠伸をしながらミリアの言う事を聞き馬車の壁に凭れかかった。
窓の外の景色をボヘッと何となしに眺める以外する事がない。

レイモンドはまた本を読み始めキースも窓の外を眺めている。
ミリアはかぎ針を動かして何やら制作中だ。
静か過ぎて寝るわこんなんと思いつつ目線をズラすとアナベルと目が合った。

アナベルは空虚な瞳でこちらを見ている。
なんか怖い。
シルフィーがなんか用なのかと口を開く前にアナベルは下を向き本を読み始めてしまったが。

一体なんなんだと言う言葉を飲み込んでシルフィーはまた先程食べたジャムパンに似ている形の雲を眺めたのだった。






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