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狗のお仕事とは
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それから2週間。
毎日毎日転がされキャンプをする日々が続いた。
しかも未だに魔封じの腕輪は外されていない。
意味が分からない。
レイモンドの言う通り魔封じの腕輪を付けていても吐き気がなくなる位には慣れたが、やはり体にずっと負荷をかけられている状態である。
やってられない。
いい加減ストライキでもしてやろうか。
いやしかし契約書のせいで従わないと地獄の様な苦しみを味わう事になると師匠に言われておりそれさえも叶わない。
事実か確かめようと軽く反抗してみた所、酸素がどんどん薄くなっていく様な感覚になると先日体験済みである。
冗談じゃない。
そんな事を考えながら鏡を睨みつけつつしゃこしゃこと歯磨きをしているとノックの音が響いた。
時計をチラリと見るがまだ朝の7時過ぎである。
訓練所に行くのは8時半の為早過ぎる時間だ。
早めに自主練とか言い出すのだろうか。
本当に勘弁して欲しい。
まだ朝食も食べてないのに。
シルフィーはわざとゆっくりと歯磨きを終え顔を洗う。
恰も気が付いていないかの様に。
のんびりと浴室の扉を開けるとリビングのソファーで紅茶を楽しんでいるらしいレイモンドと目があった。
特に急いでいる様にも見えない。
ならこんな時間に来るなと喉元まで出かかった言葉を無理矢理飲み込んだ。
「やあおはようフィー」
「…おはようございます」
「今日は訓練はないんだけど、別の用事があるんだ」
「…はあ」
「まあお披露目の式典に参加するんだけどね」
「誰の?」
「私達の」
朝から頭が痛くなる。
2週間の間に悔しいが大分軽い会話は成立する様になったがこいつとの会話はやはり噛み合わない。
「すいません。
誰の何のお披露目ですか?」
「私達、勇者御一行のお披露目だよ。」
まあ聖女御一行でも良いけどとレイモンドが言うがそこは全くもってどうでも良い。
「誰が勇者ですか?」
「キース」
「誰だよ」
「キース・ジュゼット。
私のすぐ上の兄だよ」
「…で聖女って?」
「アナベル・フォルシア。
フォルシア公爵家の御令嬢」
「だから誰だよ。
1人も知らないんすけど」
「あと騎士のガウル・アゼットと神官のミリア」
「誰も知らないんですが。
んで何故そこに私達が?」
「その仲間の王子が私で、魔術師がフィーだからだね」
「聞いてないんすけど。
てか仲間に会った事ないんすけど」
「だろうね。
言ってないし会わせてないもの」
しゃあしゃあと言うこの口を縫い付ける許可が欲しい。
切実に。
神様なんて信じた事はないが祈ってやっても良いとさえ思う。
睨み付けるシルフィーにやれやれとジェスチャーしながらレイモンドはティーカップをテーブルに置いた。
絶妙にウザイ。
「まあ、落ち着いて。
先に言っておくけどわざと会わせなかったわけじゃない。
まあ会える様に手配もしなかったけど」
「やっぱあんたが元凶じゃないすか」
「いやあのね、私も挨拶した方が良いかな?とは思ったんだよ。
けどちょっと事情があって無理だったんだよね。
何て言うか…アウェイ?」
「はあ?」
「悲しいけど嫌われに嫌われてるんだよね。
あっ因みにフィーもだから」
「何でなんすか」
「魔術師だから」
「はあ?
じゃあ外れましょうよ。
その仲間から」
「それが出来たらとっくにしてるよ。
勇者御一行のメンバーは勇者、聖女、剣士に魔術師、それと王子に神職。
これが決まってるの」
「なのに何で嫌われてるんすか」
「魔術師だから」
また戻ってしまった。
シルフィーの質問が悪いのかレイモンドが会話を噛み合せるつもりがないのか。
恐らく後者であろう。
「まあ嫌だけど決まりだからさ。
勇者御一行と一緒に結界の封印を治しつつ魔獣倒しいくだけだから」
「大分ダルい奴じゃないすか」
「そこは否定しないよ。
という訳でだ。
おめかししなきゃならないから迎えに来たんだよ」
「はあ?
おめかしい?」
「まあちょっと高級なローブと軽く化粧をね。
他は粧し込むのに慣れた方々だから、そのまま行くと浮くからやめろって言われてさ。
というわけで行くよ」
「何処へですか」
「私が住んでる離宮、翡翠宮だよ。
女官長が腕を鳴らして待ってるからね」
「…絶妙に行きたくないっすね」
「はいはい」
はいはいと言いながらレイモンドは立ち上がり着いて来いと歩き出す。
全く聞いてやしない。
行きたくなさ過ぎるにも関わらずその後ろをとぼとぼ歩く道しか残されていないシルフィーであった。
離宮の入り口に着くなり待ち構えていた女官長とやらは確かに鳴らしていた。
指をボキバキと。
やる気なのか殺る気なのか分からない。
王宮怖い。
「まあまあ本当にこんなお若いお嬢さんを隠していただなんて…」
「特に隠してたつもりはないんだけどね」
「御報告をして頂いていないと言う事は隠している事と同義でございます」
ギロリと女官長に睨まれレイモンドは肩を竦めた。
報連相をしないのは最早彼の特技らしい。
「まあ頼むよ。
あっフィー腕出して」
言われるがままに腕を出すと散々シルフィーを苦しめていた魔封じの腕輪がカシャンと地面に落ちた。
さぁっと爽やかな風が吹いたかの様に息が楽になる。
体が飛び跳ねたくなる位に軽い。
口笛でも吹きたくなる程に。
「不調を感じる部分はない?」
「いえ全く。
爽快です」
「そうなら良かった。
じゃあ私も着替えて来るからフィーも頑張ってね」
「うっす」
「ではシルフィー様、こちらへ」
ニコニコとした女官長に捏ねくり回される羽目になるのは僅か15分後の事であった。
毎日毎日転がされキャンプをする日々が続いた。
しかも未だに魔封じの腕輪は外されていない。
意味が分からない。
レイモンドの言う通り魔封じの腕輪を付けていても吐き気がなくなる位には慣れたが、やはり体にずっと負荷をかけられている状態である。
やってられない。
いい加減ストライキでもしてやろうか。
いやしかし契約書のせいで従わないと地獄の様な苦しみを味わう事になると師匠に言われておりそれさえも叶わない。
事実か確かめようと軽く反抗してみた所、酸素がどんどん薄くなっていく様な感覚になると先日体験済みである。
冗談じゃない。
そんな事を考えながら鏡を睨みつけつつしゃこしゃこと歯磨きをしているとノックの音が響いた。
時計をチラリと見るがまだ朝の7時過ぎである。
訓練所に行くのは8時半の為早過ぎる時間だ。
早めに自主練とか言い出すのだろうか。
本当に勘弁して欲しい。
まだ朝食も食べてないのに。
シルフィーはわざとゆっくりと歯磨きを終え顔を洗う。
恰も気が付いていないかの様に。
のんびりと浴室の扉を開けるとリビングのソファーで紅茶を楽しんでいるらしいレイモンドと目があった。
特に急いでいる様にも見えない。
ならこんな時間に来るなと喉元まで出かかった言葉を無理矢理飲み込んだ。
「やあおはようフィー」
「…おはようございます」
「今日は訓練はないんだけど、別の用事があるんだ」
「…はあ」
「まあお披露目の式典に参加するんだけどね」
「誰の?」
「私達の」
朝から頭が痛くなる。
2週間の間に悔しいが大分軽い会話は成立する様になったがこいつとの会話はやはり噛み合わない。
「すいません。
誰の何のお披露目ですか?」
「私達、勇者御一行のお披露目だよ。」
まあ聖女御一行でも良いけどとレイモンドが言うがそこは全くもってどうでも良い。
「誰が勇者ですか?」
「キース」
「誰だよ」
「キース・ジュゼット。
私のすぐ上の兄だよ」
「…で聖女って?」
「アナベル・フォルシア。
フォルシア公爵家の御令嬢」
「だから誰だよ。
1人も知らないんすけど」
「あと騎士のガウル・アゼットと神官のミリア」
「誰も知らないんですが。
んで何故そこに私達が?」
「その仲間の王子が私で、魔術師がフィーだからだね」
「聞いてないんすけど。
てか仲間に会った事ないんすけど」
「だろうね。
言ってないし会わせてないもの」
しゃあしゃあと言うこの口を縫い付ける許可が欲しい。
切実に。
神様なんて信じた事はないが祈ってやっても良いとさえ思う。
睨み付けるシルフィーにやれやれとジェスチャーしながらレイモンドはティーカップをテーブルに置いた。
絶妙にウザイ。
「まあ、落ち着いて。
先に言っておくけどわざと会わせなかったわけじゃない。
まあ会える様に手配もしなかったけど」
「やっぱあんたが元凶じゃないすか」
「いやあのね、私も挨拶した方が良いかな?とは思ったんだよ。
けどちょっと事情があって無理だったんだよね。
何て言うか…アウェイ?」
「はあ?」
「悲しいけど嫌われに嫌われてるんだよね。
あっ因みにフィーもだから」
「何でなんすか」
「魔術師だから」
「はあ?
じゃあ外れましょうよ。
その仲間から」
「それが出来たらとっくにしてるよ。
勇者御一行のメンバーは勇者、聖女、剣士に魔術師、それと王子に神職。
これが決まってるの」
「なのに何で嫌われてるんすか」
「魔術師だから」
また戻ってしまった。
シルフィーの質問が悪いのかレイモンドが会話を噛み合せるつもりがないのか。
恐らく後者であろう。
「まあ嫌だけど決まりだからさ。
勇者御一行と一緒に結界の封印を治しつつ魔獣倒しいくだけだから」
「大分ダルい奴じゃないすか」
「そこは否定しないよ。
という訳でだ。
おめかししなきゃならないから迎えに来たんだよ」
「はあ?
おめかしい?」
「まあちょっと高級なローブと軽く化粧をね。
他は粧し込むのに慣れた方々だから、そのまま行くと浮くからやめろって言われてさ。
というわけで行くよ」
「何処へですか」
「私が住んでる離宮、翡翠宮だよ。
女官長が腕を鳴らして待ってるからね」
「…絶妙に行きたくないっすね」
「はいはい」
はいはいと言いながらレイモンドは立ち上がり着いて来いと歩き出す。
全く聞いてやしない。
行きたくなさ過ぎるにも関わらずその後ろをとぼとぼ歩く道しか残されていないシルフィーであった。
離宮の入り口に着くなり待ち構えていた女官長とやらは確かに鳴らしていた。
指をボキバキと。
やる気なのか殺る気なのか分からない。
王宮怖い。
「まあまあ本当にこんなお若いお嬢さんを隠していただなんて…」
「特に隠してたつもりはないんだけどね」
「御報告をして頂いていないと言う事は隠している事と同義でございます」
ギロリと女官長に睨まれレイモンドは肩を竦めた。
報連相をしないのは最早彼の特技らしい。
「まあ頼むよ。
あっフィー腕出して」
言われるがままに腕を出すと散々シルフィーを苦しめていた魔封じの腕輪がカシャンと地面に落ちた。
さぁっと爽やかな風が吹いたかの様に息が楽になる。
体が飛び跳ねたくなる位に軽い。
口笛でも吹きたくなる程に。
「不調を感じる部分はない?」
「いえ全く。
爽快です」
「そうなら良かった。
じゃあ私も着替えて来るからフィーも頑張ってね」
「うっす」
「ではシルフィー様、こちらへ」
ニコニコとした女官長に捏ねくり回される羽目になるのは僅か15分後の事であった。
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