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狗のお仕事とは
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夜の帳が降りた王宮の廊下をコツコツと靴音を鳴らしながら歩く。
こちらに気が付き頭を下げた近衛騎士に片手を上げて答えながら、レイモンドは月明かりを反射して煌めく銀髪を揺らしてくすりと微笑んだ。
あのシルフィーの嫌そうな顔は堪らなく面白かった。
思い出しただけで笑みが零れてしまう程に。
内心では下衆な事を考えているにも関わらずその笑みは壮絶なまでに艶やかである。
間近で見てしまった近衛騎士が思わず頬を赤らめてしまう程度には。
「ん?
レイモンドか。
ここに来るとは珍しいな。
何かあったか?」
曲がり角から現れた長身の男がレイモンドに気が付き訝しげに目を細めた。
肩甲骨辺りまで伸ばした黒髪を緩く括ったその男性は目付きが鋭く、綺麗だがやや怖い顔立ちをしている。
レイモンドの綺麗で柔らかい雰囲気とは真逆のまるで刃物の様な雰囲気を纏うその男性にレイモンドは笑みを浮かべて答えた。
「あぁ、アイザック兄上。
良かった。
丁度兄上に用事がありまして」
「私にか?」
「はい、例の魔術師の身辺調査が終わりましたのでその報告書を出しに執務室へ伺おうかと」
「あぁあの専属になったというあれか。
問題はなさそうか?」
「えぇ。
でも本当に私があの契約書を貰って良かったんですか?」
「良かったも何も既に使用した後であろう。
それに我々の中であの契約書が見えたのはお前だけだ。
あの契約書はお前を選んだのだから仕方あるまい。
それに今更寄越せと言っても聞かんだろうお前は」
「そりゃまあそうですね」
レイモンドが口元を抑えてくすりと笑うとアイザックはその笑みを苦々しい顔で見た。
弟であるレイモンドはこの柔らかそうな雰囲気で誤解されがちだが中々に狂っている事を兄であるアイザックは良く知っているのである。
兄が抜き身の刀であるとするならば弟である彼は鞘に入った刀だ。
「まあせっかく専属魔術師なんて奇跡みたいな代物を手に入れたんだ。
精々上手く使え」
「勿論。
そうしますよ」
「報告書はここで貰おう。
…今カイラ妃が執務室に来て私を呼んでいると言われたばかりだ」
「そうですか。
では私はすぐに戻った方が良さそうですね」
「…すまんな」
「構いませんよ。
あの御方は私を見るとどうも思考がおかしくなる様ですからね。
会わない方が賢明でしょう」
「…父上も死んだ。
喪が明け地盤が安定さえすればあれを多少は抑えられるだろう。
それまで耐えてくれ」
「期待せずに待ってますよ兄上」
それではと笑みを浮かべレイモンドは踵を返す。
アイザックはその後ろ姿に眉間を皺を寄せたまま見つめていたが、先程レイモンドに手渡された報告書の束に視線を落としその背中を呼び止めた。
「おいちょっと待て。
お前専属魔術師の雇用期間が空欄になっているぞ。
魔術師は縛られるのを嫌うから3年程度で契約を解除すると言っていなかったか?」
「あーあれですか。
…数時間前に気が変わりました」
ニッコリと笑うレイモンドにアイザックは何となく悟って溜め息を吐いた。
その魔術師とやらがレイモンドにとって愉快な存在だったのだろうと。
魔術師にとっては不幸に違いないが。
「…ほどほどにな」
「えぇ勿論。
大切にしますよ」
今度こそ失礼しますと踵を返したレイモンドの背中を見ながら、アイザックはポツリとまだ見ぬ専属魔術師へと呟いた。
ただ一言、大変だなと。
それを向けられた専属魔術師は未だに鍋を掻き混ぜており、その言葉は届く事はなかったが。
こちらに気が付き頭を下げた近衛騎士に片手を上げて答えながら、レイモンドは月明かりを反射して煌めく銀髪を揺らしてくすりと微笑んだ。
あのシルフィーの嫌そうな顔は堪らなく面白かった。
思い出しただけで笑みが零れてしまう程に。
内心では下衆な事を考えているにも関わらずその笑みは壮絶なまでに艶やかである。
間近で見てしまった近衛騎士が思わず頬を赤らめてしまう程度には。
「ん?
レイモンドか。
ここに来るとは珍しいな。
何かあったか?」
曲がり角から現れた長身の男がレイモンドに気が付き訝しげに目を細めた。
肩甲骨辺りまで伸ばした黒髪を緩く括ったその男性は目付きが鋭く、綺麗だがやや怖い顔立ちをしている。
レイモンドの綺麗で柔らかい雰囲気とは真逆のまるで刃物の様な雰囲気を纏うその男性にレイモンドは笑みを浮かべて答えた。
「あぁ、アイザック兄上。
良かった。
丁度兄上に用事がありまして」
「私にか?」
「はい、例の魔術師の身辺調査が終わりましたのでその報告書を出しに執務室へ伺おうかと」
「あぁあの専属になったというあれか。
問題はなさそうか?」
「えぇ。
でも本当に私があの契約書を貰って良かったんですか?」
「良かったも何も既に使用した後であろう。
それに我々の中であの契約書が見えたのはお前だけだ。
あの契約書はお前を選んだのだから仕方あるまい。
それに今更寄越せと言っても聞かんだろうお前は」
「そりゃまあそうですね」
レイモンドが口元を抑えてくすりと笑うとアイザックはその笑みを苦々しい顔で見た。
弟であるレイモンドはこの柔らかそうな雰囲気で誤解されがちだが中々に狂っている事を兄であるアイザックは良く知っているのである。
兄が抜き身の刀であるとするならば弟である彼は鞘に入った刀だ。
「まあせっかく専属魔術師なんて奇跡みたいな代物を手に入れたんだ。
精々上手く使え」
「勿論。
そうしますよ」
「報告書はここで貰おう。
…今カイラ妃が執務室に来て私を呼んでいると言われたばかりだ」
「そうですか。
では私はすぐに戻った方が良さそうですね」
「…すまんな」
「構いませんよ。
あの御方は私を見るとどうも思考がおかしくなる様ですからね。
会わない方が賢明でしょう」
「…父上も死んだ。
喪が明け地盤が安定さえすればあれを多少は抑えられるだろう。
それまで耐えてくれ」
「期待せずに待ってますよ兄上」
それではと笑みを浮かべレイモンドは踵を返す。
アイザックはその後ろ姿に眉間を皺を寄せたまま見つめていたが、先程レイモンドに手渡された報告書の束に視線を落としその背中を呼び止めた。
「おいちょっと待て。
お前専属魔術師の雇用期間が空欄になっているぞ。
魔術師は縛られるのを嫌うから3年程度で契約を解除すると言っていなかったか?」
「あーあれですか。
…数時間前に気が変わりました」
ニッコリと笑うレイモンドにアイザックは何となく悟って溜め息を吐いた。
その魔術師とやらがレイモンドにとって愉快な存在だったのだろうと。
魔術師にとっては不幸に違いないが。
「…ほどほどにな」
「えぇ勿論。
大切にしますよ」
今度こそ失礼しますと踵を返したレイモンドの背中を見ながら、アイザックはポツリとまだ見ぬ専属魔術師へと呟いた。
ただ一言、大変だなと。
それを向けられた専属魔術師は未だに鍋を掻き混ぜており、その言葉は届く事はなかったが。
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