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プロローグ
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レイモンドに質問攻めにされていたシルフィーが多少疲れて来た頃、師匠は漸く2階から降りてきた。
普段なら絶対に着ない一張羅のローブを着て気取った足取りで降りて来たアルフォンスは、レイモンドを見て一瞬黒い目を瞬かせた。
アルフォンスに気が付いたレイモンドは、椅子から立ち上がると恭しく頭を下げる。
「突然お伺いしてしまい申し訳ありません。
私はレイモ」
「いや分かっておるよレイモンド殿下。
…父君はお元気かな?」
「…先日崩御なさいました」
「そうか…。
まあ元々身体も弱かったしの。
仕方あるまいて」
それにしたって死ぬには若過ぎるがなと呟きながらアルフォンスは椅子に腰掛け、レイモンドにも着席を促す。
シルフィーはパタパタと台所に向かうと新しい紅茶を入れ始めた。
「よく私がレイモンドだとお分かりになられましたね。
理由を伺っても?」
「儂は自分が祝福を与えた子供を間違える程まだボケてはおらんよ」
「祝福?」
「あの男は生まれて半年位の殿下を連れてここに来たんじゃ。
んでその子供が先祖返りで魔の要素が出とると長々と自慢した挙句友として出産祝いの1つや2つ寄越せと言ってきたんじゃよ。
そこで儂は殿下に『開道』を与えたんじゃ」
「開道とは一体?」
「殿下の前に困難が立ち塞がった時、それに打ち勝つ為の道を開けると言う物じゃ。
解決策がふいに頭に浮かんだり、それに必要な物が何故か手元に現れたりの」
「なるほど…。
思い当たる節はあります」
「役立っておる様で何よりじゃ」
アルフォンスはふわりと微笑むとシルフィーの出した紅茶に口を付けた。
紅茶を出し終えたシルフィーが部屋にでも戻っていようかと脚を動かすが、アルフォンスに促されまたも椅子に座らされてしまう。
完全に自分は必要ないだろうと思うが師匠の命令には逆らえない為、渋々座るしかない。
「して、レイモンド殿下。
何用でこちらにいらしたのですかな?」
「あぁ…。
実は父の遺品を整理していた時にこれを見付けましてね。
私が使わせて頂こうかと」
そう言うとレイモンドは胸元から1枚の羊皮紙を取り出し机に置いた。
アルフォンスはそれを見るなりげっと言う嫌そうな表情を浮かべ、一体何なんだとシルフィーも羊皮紙を覗き込む。
『魔術師アルフォンス・ヴィンターは生涯においてグウェン・ジュゼットに対し一度だけどんな願いも叶えるとここに契る。
この契約はアルフォンス・ヴィンターが生きている限り有効であり、グウェン・ジュゼットが他者に譲渡するのも可能である。』
「…なんすかこれ」
「…昔飲み屋のツケを立て替えて貰った時に酔った勢いで交わした契約書じゃな」
酒は身を滅ぼすとは良く言った物である。
わざわざご丁寧に他者が使用出来ない様に契約の魔術まで施されている羊皮紙は、紛れもなく正式な契約書となってしまっていた。
内容がどんなに支離滅裂であろうとも本人が書き、本人が契約の魔術まで施してしまった以上どうにもなるまい。
どんな願いも叶えるとか師匠終わったなとシルフィーは心の中で手を合わせた。
「恐らく遺品として私が相続する事も譲渡に当たるのではと考えたのですが…当たっていますか?」
「…契約術が施してある限り正当な契約者でなければ、その羊皮紙は見る事も触れる事も出来ぬよ」
「それは良かった」
即ち羊皮紙を手にした時点でこのレイモンドという男性が正当な契約者であるという証明になるとアルフォンスが苦々しい表情で告げると、レイモンドはとても良い笑みを浮かべた。
両者の表情の対比が素晴らしい。
「この契約書を見付けた時にこれしかないと思いこちらに伺いました。
アルフォンス・ヴィンター殿、私の専属の魔術師となって頂けませんか。
そして私を助けて下さい」
そう言うとレイモンドはテーブルに額が付きそうな程に深々と頭を下げた。
対してアルフォンスはこの上なく不味い物を食べさせられたかの様な顔をしている。
それはそうだろう。
魔術師とは得てして自由を好む生き物である。
短期就労として他人に仕える魔術師はいるが、専属となると相手が認めない限り解除出来ず、下手をすれば生涯に渡る事を意味していた。
一生他人の狗になる事を認める魔術師などまずいない。
…こんな馬鹿げた契約書を交わしていない限りは。
「やりましたね師匠。
荷造りしときましょうか?
就職祝いに門出をパーッとお祝いして差し上げましょうか?」
「…嬉しそうじゃのフィー」
「師匠の酒癖の悪さならいつかやらかすんじゃないかと思ってましたからね。
師匠が他人に首輪を付けられるとか暫く笑えるネタです」
「弟子が冷たい…」
「酒癖を改めなかったあんたが悪いっす」
アルフォンスの憎々しい視線を気にすること無くシルフィーは椅子からぴょんと立ち上がった。
さっさと師匠の荷造りをしてやらねばなるまい。
嬉々として二階に向かおうとするシルフィーをアルフォンスが引き止めた。
「…そうじゃ。
待ちなさいフィー」
「えー」
「えーじゃなくて座りなさい。
…レイモンド殿下。
儂は見ての通りもう歳じゃ。
助けになりたくとも老いには勝てぬ」
「…そうですか」
「じゃが儂の弟子ならばまだ若い。
魔術も儂が教えられる物は粗方仕込んであります。
恐らく戦闘面であれば若い故儂よりも上でありましょう」
アルフォンスの言葉にレイモンドが輝く瞳でシルフィーを見る。
…嫌な予感しかしない。
そして嫌な予感というのは大体良く当たるというのも定説である。
「儂の代わりに弟子を専属にしてはいかがですかな?」
「はあ?!!!」
「良いのか!?」
「良くない!!!!!!」
「もちろんです。
魔術師は一度交わした契りを破る事はしませんからの。
さあさあこの羊皮紙に手を置いて下され」
「待て待て待て待て待て!!!!」
「こうですか?」
「そうですそうです。
そして唱えて下さい。
『レイモンド・ジュゼットはアルフォンス・ヴィンターの弟子、シルフィー・ヴィンターを専属魔術師に任じ、この契りが成った事をここに宣言す』と」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!!
ほんとやめてストップステイ!!!!!!!!」
これだけシルフィーが喚いているのにアルフォンスは兎も角やめようとしないレイモンドは何なんだ。
ギッとレイモンドを睨みつけると彼の周りにアルフォンスの魔術が纏わりついている事にシルフィーは漸く気が付いた。
恐らく幻覚と遮音だろう。
レイモンドには快くいいよとでも頷くシルフィーが見えているに違いない。
この馬鹿は本気で弟子を売る気である。
羊皮紙に手を置いていたレイモンドが息を小さく吐いてから口を開いた。
「レイモンド・ジュゼットはアルフォンス・ヴィンターの弟子、シルフィー・ヴィンターを専属魔術師に任じ、この契りが成った事をここに宣言す」
レイモンドが口を閉じると羊皮紙が眩く光り、新しい文字が勝手に刻まれていく。
古代精霊文字ではっきりと契約完了が書かれていくのをシルフィーは絶望の眼差しで見詰める事しか出来ない。
アルフォンスは光が収まった羊皮紙を手に取るとニヤリと笑った。
「荷造りを頼むぞフィー?」
「ーっ黙れハゲ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
こうして哀れなシルフィーはレイモンドの狗になったのである。
普段なら絶対に着ない一張羅のローブを着て気取った足取りで降りて来たアルフォンスは、レイモンドを見て一瞬黒い目を瞬かせた。
アルフォンスに気が付いたレイモンドは、椅子から立ち上がると恭しく頭を下げる。
「突然お伺いしてしまい申し訳ありません。
私はレイモ」
「いや分かっておるよレイモンド殿下。
…父君はお元気かな?」
「…先日崩御なさいました」
「そうか…。
まあ元々身体も弱かったしの。
仕方あるまいて」
それにしたって死ぬには若過ぎるがなと呟きながらアルフォンスは椅子に腰掛け、レイモンドにも着席を促す。
シルフィーはパタパタと台所に向かうと新しい紅茶を入れ始めた。
「よく私がレイモンドだとお分かりになられましたね。
理由を伺っても?」
「儂は自分が祝福を与えた子供を間違える程まだボケてはおらんよ」
「祝福?」
「あの男は生まれて半年位の殿下を連れてここに来たんじゃ。
んでその子供が先祖返りで魔の要素が出とると長々と自慢した挙句友として出産祝いの1つや2つ寄越せと言ってきたんじゃよ。
そこで儂は殿下に『開道』を与えたんじゃ」
「開道とは一体?」
「殿下の前に困難が立ち塞がった時、それに打ち勝つ為の道を開けると言う物じゃ。
解決策がふいに頭に浮かんだり、それに必要な物が何故か手元に現れたりの」
「なるほど…。
思い当たる節はあります」
「役立っておる様で何よりじゃ」
アルフォンスはふわりと微笑むとシルフィーの出した紅茶に口を付けた。
紅茶を出し終えたシルフィーが部屋にでも戻っていようかと脚を動かすが、アルフォンスに促されまたも椅子に座らされてしまう。
完全に自分は必要ないだろうと思うが師匠の命令には逆らえない為、渋々座るしかない。
「して、レイモンド殿下。
何用でこちらにいらしたのですかな?」
「あぁ…。
実は父の遺品を整理していた時にこれを見付けましてね。
私が使わせて頂こうかと」
そう言うとレイモンドは胸元から1枚の羊皮紙を取り出し机に置いた。
アルフォンスはそれを見るなりげっと言う嫌そうな表情を浮かべ、一体何なんだとシルフィーも羊皮紙を覗き込む。
『魔術師アルフォンス・ヴィンターは生涯においてグウェン・ジュゼットに対し一度だけどんな願いも叶えるとここに契る。
この契約はアルフォンス・ヴィンターが生きている限り有効であり、グウェン・ジュゼットが他者に譲渡するのも可能である。』
「…なんすかこれ」
「…昔飲み屋のツケを立て替えて貰った時に酔った勢いで交わした契約書じゃな」
酒は身を滅ぼすとは良く言った物である。
わざわざご丁寧に他者が使用出来ない様に契約の魔術まで施されている羊皮紙は、紛れもなく正式な契約書となってしまっていた。
内容がどんなに支離滅裂であろうとも本人が書き、本人が契約の魔術まで施してしまった以上どうにもなるまい。
どんな願いも叶えるとか師匠終わったなとシルフィーは心の中で手を合わせた。
「恐らく遺品として私が相続する事も譲渡に当たるのではと考えたのですが…当たっていますか?」
「…契約術が施してある限り正当な契約者でなければ、その羊皮紙は見る事も触れる事も出来ぬよ」
「それは良かった」
即ち羊皮紙を手にした時点でこのレイモンドという男性が正当な契約者であるという証明になるとアルフォンスが苦々しい表情で告げると、レイモンドはとても良い笑みを浮かべた。
両者の表情の対比が素晴らしい。
「この契約書を見付けた時にこれしかないと思いこちらに伺いました。
アルフォンス・ヴィンター殿、私の専属の魔術師となって頂けませんか。
そして私を助けて下さい」
そう言うとレイモンドはテーブルに額が付きそうな程に深々と頭を下げた。
対してアルフォンスはこの上なく不味い物を食べさせられたかの様な顔をしている。
それはそうだろう。
魔術師とは得てして自由を好む生き物である。
短期就労として他人に仕える魔術師はいるが、専属となると相手が認めない限り解除出来ず、下手をすれば生涯に渡る事を意味していた。
一生他人の狗になる事を認める魔術師などまずいない。
…こんな馬鹿げた契約書を交わしていない限りは。
「やりましたね師匠。
荷造りしときましょうか?
就職祝いに門出をパーッとお祝いして差し上げましょうか?」
「…嬉しそうじゃのフィー」
「師匠の酒癖の悪さならいつかやらかすんじゃないかと思ってましたからね。
師匠が他人に首輪を付けられるとか暫く笑えるネタです」
「弟子が冷たい…」
「酒癖を改めなかったあんたが悪いっす」
アルフォンスの憎々しい視線を気にすること無くシルフィーは椅子からぴょんと立ち上がった。
さっさと師匠の荷造りをしてやらねばなるまい。
嬉々として二階に向かおうとするシルフィーをアルフォンスが引き止めた。
「…そうじゃ。
待ちなさいフィー」
「えー」
「えーじゃなくて座りなさい。
…レイモンド殿下。
儂は見ての通りもう歳じゃ。
助けになりたくとも老いには勝てぬ」
「…そうですか」
「じゃが儂の弟子ならばまだ若い。
魔術も儂が教えられる物は粗方仕込んであります。
恐らく戦闘面であれば若い故儂よりも上でありましょう」
アルフォンスの言葉にレイモンドが輝く瞳でシルフィーを見る。
…嫌な予感しかしない。
そして嫌な予感というのは大体良く当たるというのも定説である。
「儂の代わりに弟子を専属にしてはいかがですかな?」
「はあ?!!!」
「良いのか!?」
「良くない!!!!!!」
「もちろんです。
魔術師は一度交わした契りを破る事はしませんからの。
さあさあこの羊皮紙に手を置いて下され」
「待て待て待て待て待て!!!!」
「こうですか?」
「そうですそうです。
そして唱えて下さい。
『レイモンド・ジュゼットはアルフォンス・ヴィンターの弟子、シルフィー・ヴィンターを専属魔術師に任じ、この契りが成った事をここに宣言す』と」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!!
ほんとやめてストップステイ!!!!!!!!」
これだけシルフィーが喚いているのにアルフォンスは兎も角やめようとしないレイモンドは何なんだ。
ギッとレイモンドを睨みつけると彼の周りにアルフォンスの魔術が纏わりついている事にシルフィーは漸く気が付いた。
恐らく幻覚と遮音だろう。
レイモンドには快くいいよとでも頷くシルフィーが見えているに違いない。
この馬鹿は本気で弟子を売る気である。
羊皮紙に手を置いていたレイモンドが息を小さく吐いてから口を開いた。
「レイモンド・ジュゼットはアルフォンス・ヴィンターの弟子、シルフィー・ヴィンターを専属魔術師に任じ、この契りが成った事をここに宣言す」
レイモンドが口を閉じると羊皮紙が眩く光り、新しい文字が勝手に刻まれていく。
古代精霊文字ではっきりと契約完了が書かれていくのをシルフィーは絶望の眼差しで見詰める事しか出来ない。
アルフォンスは光が収まった羊皮紙を手に取るとニヤリと笑った。
「荷造りを頼むぞフィー?」
「ーっ黙れハゲ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
こうして哀れなシルフィーはレイモンドの狗になったのである。
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