似非王子と欠陥令嬢

ちゃろっこ

文字の大きさ
上 下
256 / 339
箱の底に残る物

256

しおりを挟む
身体中を熱だけが支配する。



キャロルの感情そのままに魔力が溢れ出すのが分かる。



砂埃が舞い上がったのを皮切りに部屋中を切り裂く様な風が支配した。

憎い。

全てが憎くて堪らない。

役に立たない自分が1番憎い。

何一つ守れやしない自分事消えてしまいたい。

先程の暴発で傷んでいた柱が崩れ轟音を立てて倒れる。

一寸先も見えなくなる様な吹き荒れ切り裂く暴風。

吹き飛んだのが天井なのか壁なのかも分からない。

魔力の制御が出来ない。

いやするつもりもなかったのかもしれない。

怒りを抑える術が分からない。

どこまでも暗い熱に浮かされた感情の抑え方をキャロルは知らない。

全てを破壊する様な吹き荒れる風の中アルバートの劈く様な絶叫が聞こえた。

無意識に口角が上がるのが分かる。

もう自分は狂っているのだろう。

誰かの断末魔に笑いが止まらないなんて。

友の亡骸を抱いたまま笑っているなんて。

狂ってる。

この世界も自分自身も。



ふと風に乗った香りが鼻をくすぐった。

干した布団の様な太陽の香り。

顔を上げるとベッドの上で傷を負う事なく泣きじゃくっている幼いキャロルが見えた。

この暴風の中彼女の周りだけ風が避けている。

この香りを自分は知っている。

ばっと横を見ると幼いキャロルに手を伸ばしたまま絶命している母親がいた。

最期に彼女はキャロルに防護壁をかけたらしい。

彼女は最期に自分を守ったのか。

そんな彼女を自分は恨み続けていたのか。

自分の愚かさに今度こそ笑いが止まらない。

もう真実などどうでも良い。

見えた真実はあまりにも優しく甘美でそして残酷なまでに冷徹だった。

もう何も見たくない。

視界が白く染まっていく。

内臓を引っ張られる様な感覚に心の何処かで帰るのかと冷静に考える自分がいた。

吹き飛ばされた部屋の扉の向こうからキャロルの名を呼ぶ声が聞こえた。

その声が誰の物だったのかは分からない。

見る前にキャロルは眩しい位の白い世界へ飛ばされていたのだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

間違った方法で幸せになろうとする人の犠牲になるのはお断りします。

ひづき
恋愛
濡れ衣を着せられて婚約破棄されるという未来を見た公爵令嬢ユーリエ。 ───王子との婚約そのものを回避すれば婚約破棄など起こらない。 ───冤罪も継母も嫌なので家出しよう。 婚約を回避したのに、何故か家出した先で王子に懐かれました。 今度は異母妹の様子がおかしい? 助けてというなら助けましょう! ※2021年5月15日 完結 ※2021年5月16日  お気に入り100超えΣ(゚ロ゚;)  ありがとうございます! ※残酷な表現を含みます、ご注意ください

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...