240 / 339
箱の底に残る物
240
しおりを挟む
「よし、とりあえずキャロルの実家に行こうか。
キャロルの母君が既に操られていてもこの後操られるにしても母君の近くにいれば魔術師に会えるはずだからね。」
「そうですね。
行きましょうか。」
そう言いながらもキャロルの声は一瞬震えてしまう。
ずっと憎んでいた母親に会う。
ずっと憎まれていたと思っていた母親に会う。
見るだけとは言え怖くて堪らない。
「キャロル?」
ルシウスが立ち止まっているキャロルの顔を覗き込んだ。
ルシウスの深海の様な瞳がキャロルをじっと見詰める。
ルシウスはふわりと目尻を下げた。
「…大丈夫だよ。
見るだけなんだから。
それにちゃんと自分の目で見て判断しないと後悔するってキャロルが弟に教えたんでしょ?
ハリーから聞いたよ。」
「…そうですね。」
キャロルは胸を抑えながら頷く。
大丈夫だ。
見るだけなのだ。
別に何か話すわけじゃない。
何を怖がる必要がある。
だが鼓舞する声とは裏腹に足は竦んでしまっていた。
膝の震えが止まらない。
自分はこんなにもいつの間にか家族を、母親を恐れていたのか。
視界に入れる事さえ拒絶してしまう程に。
操られていたと知っても受け入れられない程に。
俯いていたキャロルをふわりとルシウスの匂いが包んだ。
後頭部に置かれた掌がゆっくりとキャロルを撫でる。
「息を大きく吸ってごらん。
大丈夫だから。
そんなに怯えなくても怖くないから。
…そうゆっくり吐いて。」
ルシウスの声に合わせてゆっくりと息を吐く。
上手く呼吸さえ出来ていなかったのか先程より景色がはっきりと見える。
膝の震えもいつの間にか止まっていた。
「…ありがとうございます。」
「ん、どういたしまして。」
そう言いながらまだルシウスはキャロルを抱き締めたまま頭を撫で回している。
暑苦しい上にウザイ。
この前から撫で癖の上に抱き着き癖まで付いた気がする。
スキンシップ過剰にも程って物がある。
ここで諦めて妥協したら悪化の一途を辿る気しかしない。
「離して貰って良いですか?」
「ん?
どうして?」
「暑苦しいし鬱陶しいからです。」
「婚約者なら普通の行為だけど?」
「候補なんで当て嵌らないかと。
まじで暑いんで離して下さい。」
ルシウスは仕方ないなあとキャロルを解放した。
だが急に顎に手を当て何やら考え込んでいる。
キャロルの母君が既に操られていてもこの後操られるにしても母君の近くにいれば魔術師に会えるはずだからね。」
「そうですね。
行きましょうか。」
そう言いながらもキャロルの声は一瞬震えてしまう。
ずっと憎んでいた母親に会う。
ずっと憎まれていたと思っていた母親に会う。
見るだけとは言え怖くて堪らない。
「キャロル?」
ルシウスが立ち止まっているキャロルの顔を覗き込んだ。
ルシウスの深海の様な瞳がキャロルをじっと見詰める。
ルシウスはふわりと目尻を下げた。
「…大丈夫だよ。
見るだけなんだから。
それにちゃんと自分の目で見て判断しないと後悔するってキャロルが弟に教えたんでしょ?
ハリーから聞いたよ。」
「…そうですね。」
キャロルは胸を抑えながら頷く。
大丈夫だ。
見るだけなのだ。
別に何か話すわけじゃない。
何を怖がる必要がある。
だが鼓舞する声とは裏腹に足は竦んでしまっていた。
膝の震えが止まらない。
自分はこんなにもいつの間にか家族を、母親を恐れていたのか。
視界に入れる事さえ拒絶してしまう程に。
操られていたと知っても受け入れられない程に。
俯いていたキャロルをふわりとルシウスの匂いが包んだ。
後頭部に置かれた掌がゆっくりとキャロルを撫でる。
「息を大きく吸ってごらん。
大丈夫だから。
そんなに怯えなくても怖くないから。
…そうゆっくり吐いて。」
ルシウスの声に合わせてゆっくりと息を吐く。
上手く呼吸さえ出来ていなかったのか先程より景色がはっきりと見える。
膝の震えもいつの間にか止まっていた。
「…ありがとうございます。」
「ん、どういたしまして。」
そう言いながらまだルシウスはキャロルを抱き締めたまま頭を撫で回している。
暑苦しい上にウザイ。
この前から撫で癖の上に抱き着き癖まで付いた気がする。
スキンシップ過剰にも程って物がある。
ここで諦めて妥協したら悪化の一途を辿る気しかしない。
「離して貰って良いですか?」
「ん?
どうして?」
「暑苦しいし鬱陶しいからです。」
「婚約者なら普通の行為だけど?」
「候補なんで当て嵌らないかと。
まじで暑いんで離して下さい。」
ルシウスは仕方ないなあとキャロルを解放した。
だが急に顎に手を当て何やら考え込んでいる。
0
お気に入りに追加
976
あなたにおすすめの小説
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
間違った方法で幸せになろうとする人の犠牲になるのはお断りします。
ひづき
恋愛
濡れ衣を着せられて婚約破棄されるという未来を見た公爵令嬢ユーリエ。
───王子との婚約そのものを回避すれば婚約破棄など起こらない。
───冤罪も継母も嫌なので家出しよう。
婚約を回避したのに、何故か家出した先で王子に懐かれました。
今度は異母妹の様子がおかしい?
助けてというなら助けましょう!
※2021年5月15日 完結
※2021年5月16日
お気に入り100超えΣ(゚ロ゚;)
ありがとうございます!
※残酷な表現を含みます、ご注意ください
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる