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出会い
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「……美しい狼……」
その狼は私を威嚇するでもなく、何か品定めでもするかのような視線をこちらに向けている。
荘厳な雰囲気は、この花畑と相まってまるで神の使いなのではないかと錯覚する程だ。
周りを見るけど、仲間がいる気配はない。
「……貴方、1人なの?」
『……』
「私もね、1人なの」
今まで出て来なかったのに言葉にした瞬間、私の涙腺は崩壊した。この絶望的状況が事実だと改めて痛感してしまったから。
やっぱり、1人は寂しい。
「っ……死に、たくないっ……でも、貴方みたいな美しい、狼の糧になるなら……悪くないかしら……」
俯いていた私が顔を上げてその狼の方を見ると、いつの間にか私の目の前に立っている。
私の命は、ここで散るのね。
でも、この美しい狼を生き永らえさせる努力をしたと思えば……
狼が近付いて来たのが分かって、私は目を閉じた。
痛いのは嫌だから、一思いにして欲しかった。
「……ッ…………?」
待てども待てども、思っていた痛みはいつまで経っても来ない。
代わりに感じたのは、ベロンと頬を撫でる感覚。
「ひゃっ」
『グルルゥ』
あれ……?私、戯れられてない……?
そう思った時には、頬をスリスリされていた。まるで大型犬を相手にしているかのようだ。
「……食べないの?」
『ガゥ?』
私が質問すれば、美しい狼は首を傾げるだけ。
あれ?この子やっぱり大型犬……?
「私と、仲良くしてくれるの?」
『ォン!』
おぉ、返事を返してくれた。
おそるおそる手を伸ばして、私が頭をモフモフと撫でると、とても気持ち良さそうに目を細める。
なんだかガレナを思い出してしまって、私は狼の横腹にボフッと顔を埋めた。
めっちゃふかふかで、あったかい……
気持ち良くて、私の意識は段々と沈んでいく。
「……不思議。さっきまで、あんなに心細くて仕方なかったのに」
一筋伝った私の涙を、狼は舌で拭ってくれた。
「ごめんね……ちょっとだけ……」
寝かせて。という言葉は紡がれなかったけど、狼は微動だにすることなかった。
______________
ハッ!と私が目を覚ますと、日はまだ高くて、あまり時間は経っていないようだった。
「あれ……?」
私の下には相変わらず狼がいてくれているけど、どうやら寝ていたようだ。
私の声で起こしてしまったらしくて、ちょっと申し訳ない。
「ごめんね?起こしちゃったかしら」
『グ……クワァー』
大きな欠伸をしながら起きてくる狼の背中を撫でる。
ずっと狼って呼ぶのもあれなので、名前を付けたいな。
そう思って狼の方へ向き直る。
「ねぇ。貴方に、名前を付けてもいい?」
『?』
「あのね、″ユークレース″って呼んでもいいかしら?」
この子に付けるなら、絶対この名前にしようと思っていた。
深い蒼に純白……それは、前世でいうユークレースという宝石を彷彿とさせた。
心を自由にしてくれるというパワーを持っていて、私の荒んだ心も癒して欲しいという願いも込めて。
試しにユーク、と呼んでみたら『ガゥ!』と返事をした。
この子は私の言ってることが分かってるのかしら?
「言ってることが分かるなら……ねぇユーク。この辺に、果物がなってる場所とかある?」
『ガァウ』
ユークは私の横に屈む。これは背中に乗れということでいいのだろうか……?
「乗るの?」
『ォン!』
とりあえず乗ってみると、ユークはすごい速さで駆け出した。でも振り落とされることはなくて、何だか風にでもなった気分だった。
「わー!はやーい!ユーク、あなた速いのね!」
私が褒めると、前世でいうならドヤ顔という単語が似合いそうな表情。
それも含めて可愛いと思ってしまう。
30分程乗っていたけど、ブレーキがかかる。着いたのかと周りを見渡した。
『ガゥ』
「これ……」
これは、見渡す限りのリンゴだ。リンゴがなっている。
試しに1つを取って食べてみると、とても甘くて美味しい。
「美味しい……ユーク、ありがとう」
喉も潤い、お腹も膨れたところで私が褒めながら撫でてあげると、相変わらず嬉しそう。この子は癒しだわ。
「でも、もう暗いのよね……ユークがいれば、森を抜けて違う国へも行けるかも」
ユークのお陰で、生きる希望が見えてきたかもしれない。
空を見上げれば、オレンジに染まってくるのが分かる。
そろそろ日が暮れるので、明かりのないこの森は暗くなったら何も見えなくなりそうだ。
「とりあえず火を起こそう……」
枝と葉を集めて、私は手を翳す。
「ファイア」
言葉を紡ぐと、私の手に何かが集まってくる感覚。
おぉ、これが魔法……今世では普通に使ってたはずだけど、前世の私からは想像出来ないもの。
悪役令嬢時代は、もっとすごい魔法を使ってたのに、今では出来る気がしない。前世の記憶に引っ張られすぎて、今世での感覚を色々と忘れてしまっているようだ。
私の指からピッと光が出たかと思うと、それは枝葉目掛けて飛んだ。次の瞬間、パチパチと音を立てて火が点いた。
「やった!成功!」
私が喜んでいると、背中にモフッとした感触。ユークが背中に頭をグリグリしていた。
「ん?どうしたの?」
私が撫でると落ち着いたので、この子はかなりの甘えんぼさんのようだ。
この大きさだけど、まだ子供なのかな……?
「ねぇユーク、貴方はどうして1人でいたの?」
『グゥ?』
「……貴方と、お話出来たらいいのに」
なんて、叶わないことを言っても仕方ない。
「明日に備えて、今日は寝ましょうか」
またユークの脇腹に身体を預けて、自然と眠りに落ちていく。前世でいうなら、これが人をダメにするソファみたいな感じかしら……
そんなことを考えながら、私の思考は途切れた。
その狼は私を威嚇するでもなく、何か品定めでもするかのような視線をこちらに向けている。
荘厳な雰囲気は、この花畑と相まってまるで神の使いなのではないかと錯覚する程だ。
周りを見るけど、仲間がいる気配はない。
「……貴方、1人なの?」
『……』
「私もね、1人なの」
今まで出て来なかったのに言葉にした瞬間、私の涙腺は崩壊した。この絶望的状況が事実だと改めて痛感してしまったから。
やっぱり、1人は寂しい。
「っ……死に、たくないっ……でも、貴方みたいな美しい、狼の糧になるなら……悪くないかしら……」
俯いていた私が顔を上げてその狼の方を見ると、いつの間にか私の目の前に立っている。
私の命は、ここで散るのね。
でも、この美しい狼を生き永らえさせる努力をしたと思えば……
狼が近付いて来たのが分かって、私は目を閉じた。
痛いのは嫌だから、一思いにして欲しかった。
「……ッ…………?」
待てども待てども、思っていた痛みはいつまで経っても来ない。
代わりに感じたのは、ベロンと頬を撫でる感覚。
「ひゃっ」
『グルルゥ』
あれ……?私、戯れられてない……?
そう思った時には、頬をスリスリされていた。まるで大型犬を相手にしているかのようだ。
「……食べないの?」
『ガゥ?』
私が質問すれば、美しい狼は首を傾げるだけ。
あれ?この子やっぱり大型犬……?
「私と、仲良くしてくれるの?」
『ォン!』
おぉ、返事を返してくれた。
おそるおそる手を伸ばして、私が頭をモフモフと撫でると、とても気持ち良さそうに目を細める。
なんだかガレナを思い出してしまって、私は狼の横腹にボフッと顔を埋めた。
めっちゃふかふかで、あったかい……
気持ち良くて、私の意識は段々と沈んでいく。
「……不思議。さっきまで、あんなに心細くて仕方なかったのに」
一筋伝った私の涙を、狼は舌で拭ってくれた。
「ごめんね……ちょっとだけ……」
寝かせて。という言葉は紡がれなかったけど、狼は微動だにすることなかった。
______________
ハッ!と私が目を覚ますと、日はまだ高くて、あまり時間は経っていないようだった。
「あれ……?」
私の下には相変わらず狼がいてくれているけど、どうやら寝ていたようだ。
私の声で起こしてしまったらしくて、ちょっと申し訳ない。
「ごめんね?起こしちゃったかしら」
『グ……クワァー』
大きな欠伸をしながら起きてくる狼の背中を撫でる。
ずっと狼って呼ぶのもあれなので、名前を付けたいな。
そう思って狼の方へ向き直る。
「ねぇ。貴方に、名前を付けてもいい?」
『?』
「あのね、″ユークレース″って呼んでもいいかしら?」
この子に付けるなら、絶対この名前にしようと思っていた。
深い蒼に純白……それは、前世でいうユークレースという宝石を彷彿とさせた。
心を自由にしてくれるというパワーを持っていて、私の荒んだ心も癒して欲しいという願いも込めて。
試しにユーク、と呼んでみたら『ガゥ!』と返事をした。
この子は私の言ってることが分かってるのかしら?
「言ってることが分かるなら……ねぇユーク。この辺に、果物がなってる場所とかある?」
『ガァウ』
ユークは私の横に屈む。これは背中に乗れということでいいのだろうか……?
「乗るの?」
『ォン!』
とりあえず乗ってみると、ユークはすごい速さで駆け出した。でも振り落とされることはなくて、何だか風にでもなった気分だった。
「わー!はやーい!ユーク、あなた速いのね!」
私が褒めると、前世でいうならドヤ顔という単語が似合いそうな表情。
それも含めて可愛いと思ってしまう。
30分程乗っていたけど、ブレーキがかかる。着いたのかと周りを見渡した。
『ガゥ』
「これ……」
これは、見渡す限りのリンゴだ。リンゴがなっている。
試しに1つを取って食べてみると、とても甘くて美味しい。
「美味しい……ユーク、ありがとう」
喉も潤い、お腹も膨れたところで私が褒めながら撫でてあげると、相変わらず嬉しそう。この子は癒しだわ。
「でも、もう暗いのよね……ユークがいれば、森を抜けて違う国へも行けるかも」
ユークのお陰で、生きる希望が見えてきたかもしれない。
空を見上げれば、オレンジに染まってくるのが分かる。
そろそろ日が暮れるので、明かりのないこの森は暗くなったら何も見えなくなりそうだ。
「とりあえず火を起こそう……」
枝と葉を集めて、私は手を翳す。
「ファイア」
言葉を紡ぐと、私の手に何かが集まってくる感覚。
おぉ、これが魔法……今世では普通に使ってたはずだけど、前世の私からは想像出来ないもの。
悪役令嬢時代は、もっとすごい魔法を使ってたのに、今では出来る気がしない。前世の記憶に引っ張られすぎて、今世での感覚を色々と忘れてしまっているようだ。
私の指からピッと光が出たかと思うと、それは枝葉目掛けて飛んだ。次の瞬間、パチパチと音を立てて火が点いた。
「やった!成功!」
私が喜んでいると、背中にモフッとした感触。ユークが背中に頭をグリグリしていた。
「ん?どうしたの?」
私が撫でると落ち着いたので、この子はかなりの甘えんぼさんのようだ。
この大きさだけど、まだ子供なのかな……?
「ねぇユーク、貴方はどうして1人でいたの?」
『グゥ?』
「……貴方と、お話出来たらいいのに」
なんて、叶わないことを言っても仕方ない。
「明日に備えて、今日は寝ましょうか」
またユークの脇腹に身体を預けて、自然と眠りに落ちていく。前世でいうなら、これが人をダメにするソファみたいな感じかしら……
そんなことを考えながら、私の思考は途切れた。
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